第9話 ギャルに何をしたの?

よく晴れた、快晴の下で同じクラスメイトとサッカーをして遊んだ。

先生は担任の高崎先生だった。部活と切り離しているのか、サングラスをつけてストレッチやランニングなど簡単な指示と、チーム分けをするぐらいで特にこれといったことは起きずに終わった。

終わるはずだった……。


「まじぱない!シュートずばーて感じですごいね!」


「…………」


柳永は自分の身体の成長と、精神が追いついておらず、龍助とサッカーを通しながら確認し、自分の身体が想像以上に動けることをパス、ドリブル、フェイントなどを一通りためし、空いているゴールの右隅にシュートを決めた時だった。

金髪に、一部編み込んだ髪がチャームポイントになっている、耳に幾つもピアスが空いており、右目の下の泣きぼくろが満面の笑みとともに目に留まる。一度あったら忘れ無さそうなギャルに声をかけられハイタッチをせがまれていた、場の空気いや、目の前のギャルに合わせてハイタッチする。


「うっし!ノリいいね!てか、わたしのこと覚えてなくなくない?」


「うん、覚えてない……」


見れば見るほど、自分とは縁が無さそうな人物であった。


「はぁーマジでショックなんですけどぉ」


「なんか、ごめん」


「うそうそ、そんな落ち込むことないしょ!頭たたきゃすぐに思い出すってはははっ」


落ち込んだ自分の苦労を返して欲しいくらい、彼女はあっけらかんとしていた。逆にそんな自由気ままな性格が彼女の利点のようにも感じた。


「あ?私は西園寺うららねっ!可愛い名前しょ!忘れたならうららでよろしくっ!恩人くんっ」


「恩人くんって?」

彼女の口から出た言葉に、反応する。恩人ということは、今の自分は彼女に何か恩を売るようなことをしたのだろう。そこまではわかるが、簡単な消しゴムを貸したとか、無くしたものを一緒に探して見つけたというような、軽いものではないことが、彼女の言葉から重みとして、「恩人」という部分だけ強く感じた。


「あー!そこからはないっしょ!言うのも恥ずいしていうか、思い出すまで喋るきないし、というか朝から囲まれすぎてまじうけるっ。あ、あと5分で休憩だからまただべろーね!」


一言で嵐のような人だった。

だが、龍助や、美玲、こころっちは面倒臭そうに逃げてたけど、誰とでも気さくに話しクラスの中心のような人物であると柳永は認識した。


水分補給も兼ねた休憩の時には、ただひたすら彼女は先ほどの宣言通り喋っていたが、異様に距離感が近かった。


「あっしーの肩そんな重い?ちょっとお昼食べ過ぎてサッカーで減量中なんてねっ」


ベンチは十分に空いているのに、肩が触れる近さで、頬が赤くなるのは運動後の暑さのせいだけではなかった。彼女の吐息すら聞こえる程の近さだった。


「ちょっと近くない?」


ありきたりな返事を返す、今の時代も、過去になってしまった、小学生時代もここまで、距離が近いことは体操でペアを組む時以外なかった。それも、クラスの女子が1人休んで、奇跡的に柳永がペアがいなかった時くらいであり、慣れているはずもなかった。


「近くなくなくない?別に普通しょ?それともなに?意識してるの?」


「それは、緊張するよ、いい匂いするし」

普通なわけがない、この近さが普通なら、みんなのパーソナルスペースなんてものは存在せず、戦争だって起きないと思えるような異常な距離感であった。それよりも、彼女からはとてもよい匂いが漂っていた。


「あー!香水の臭いかな?いいっしょこれ?どうどう」


そう言いながら恥ずかしげもなく、顔を近づけてくる。香水を首にもつけているのか、そこから甘くも深い良い匂いが鼻腔を刺激する。それとともに、視界にも彼女のジャージから胸元がチラチラと見えて視界も同時に刺激されていた。


「近い!近すぎるって!」


推し避けようと、するが触れることはかなわず、少しそっぽを向き、声を荒げるしか柳永は方法を知らなかった。


「けちっー!いいっしょうちらのなかなんだからて!記憶ないのかうけるっ」


1人で笑っていたが、休憩が終わり先生が次の試合ため集合をかけた時だった。


「忘れたなんて言わせないからね?恩人くんっ思い出せてあげるからあの情熱的なことをっと!またねっ」


立ち上がると同時に耳元で、囁く彼女。

その様子を、ほかに休憩していた生徒は目にしているものもいたが、彼女はいつもこの調子なのか一部の美玲、こころっち、首を横に振って肩をすかしている龍助以外は特に気に留めている様子はなかった。

(何をしたんだよ、今の俺、あんなギャルに一体なにしたの?)とそんなことを思っている精神年齢10歳の柳永は知らないこと=不安を抱き始めていた。


分からないことは、怖いこと。未来の世界に来てしまいまだ1日と少しだが、沢山の情報が頭を支配し分からないことは、当たり前だがどうなるかわからないことであり恐怖が支配していた。

早く家に帰って、残りの手紙を読み、言い方は妙だが、未来を生きるための予習をしておきたい気持ちもあった。ただでさえ周りは大人だらけの世界、はっきりいって体育以外の授業は合わせようとすることだけで精一杯だった。


「柳永はじまるぞ?まじて早くこい」



高崎先生によばれ、不安を隠すかのように、マズローのストレスコーピングの昇華に当てはめるかのように、後半のサッカーに思いっきり今抱えている不安をぶつけた。

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