第8話 眠り姫との出会い。

教室に戻り、次が体育との事で気分が幾分かは楽になっていたが、教室を開けると、視線が再び柳永に集中し、一瞬騒めきに静寂が訪れる嫌な雰囲気からか緊張と、未来に来たことの不安が再来した。

自分の席につく、隣の美玲はトイレに行っているのか、おらず知っている人がいないことは不安を増強させてるには十分であった。萎縮しながら、席につくと、目の前の女子の制服をきた、女の子は眠っているのか、顔は見えず、机に突っ伏す形でスゥースゥと気持ちの良い寝息を立てていた。

自分の席の荷物掛けの窓側に体操着が入っているのを確認し、机の上に置いた時誰かが自分の名前を呼んだ。


「よう柳永!次体育サッカーだってよ!」


ツーブロックの、体育会系の身長は170センチ後半はあるだろう、少し強面な男子が声をかけてきた。だが、強面な顔とは少しにつかわない悪戯な笑顔と気さくな態度に、まるで昔からの友人であるかのように感じた。

とりあえず声をかけてくれたことに対し、戸惑いながら返事を返した。


「えーと?えーと名前……」


「龍助だよ?小学高クラブ一緒だったじゃんて……覚えてねぇのか、俺中学違うし中学からサッカーやめてテニス部に入ったからな」


龍助という、言葉に5年前、自分にとっては3日前にあったサッカークラブの友人と顔が重なる。5年で成長したが、してやったりといった悪戯な笑顔や、人懐こい性格は自分の知っている龍助と重なり、嬉しさのあまり声長が高くなっているのを自分でも分かった。


「龍助!龍助なのか!なんか嬉しい!」


5年間成長した龍助まさか再会出来るとは思わず、席から立ち上がった。ホームルームでも苗字しか呼ばないため分からなかったが、本人から名乗り来てくれたことが嬉しくてたまらなかった。



「お?思い出したのか」


「あえーと小学生の時のこと少しだけなんだよな」



「落ち込むなよー更衣室で着替えようぜ一階にあるからよまたサッカーやろうぜ」


自分が落ち込んでいるように感じたのか、自分のいる席に近づきつつ右目でウィンクする。肩を叩き声をかけてくれる龍助に、未来にきて知り合いが成長している姿に、つい3日前のことなのに懐かしさと、成長した彼を重ねるのに時間はかからず、また自分の好きなサッカーができることが嬉しく感じ

教室に響くような明るい声で返答する柳永。


「うんっサッカーできるの嬉しい!」



だが、そんな友人2人のやりとりを鬱陶しく聞いてるものが1人いた。


それは、2人の近く、いや柳永の目の前から聞こえた気がした。


「ん、五月蝿い、特に和歌鷹」


「ん?今声が聞こえたような気のせいか……」


前から聞こえた気がするが、視界から見える景色には席の最前列で、窓に寄りかかりながら女子2人が楽しそうに話している様子だけであり、自分の幻聴も疑った時だった。


「ん、あんたに言ったのよ和歌鷹柳永」


自分のしたから声がする、未来に来て身長はわからないが、龍助が近くに来ても見下ろしているということは180センチはあるのだろう、首を曲げて、視界をできる限り下げると、そこには……。



「ん、私だよ授業中も月見さんとイチャコラ、休息時間はギャラリーブレイク、体育となったら元気いっぱいうざすぎ、はぁ喋り疲れた」


顔を俯きながら喋っているからか、声が少し篭り気味で聞き取れない部分もあったが、小学生の時によく聞いていた、女子小学生のような幼さも残した可愛らしさ声調と、それに似合わずとも遠い口が悪い、ツンツンしている印象も受ける返事が聞かれた。

小学校では当たり前であったような悪口で柳永は不思議と同年代に向けるような親しみも感じた。



「お、眠り姫やんそんな喋れんだな」


そんな時、隣にいた龍助が強面な表情で彼女を見下ろす。


「知ってるんだ……」


「そ、いつも寝てるから眠り姫」


少し馬鹿にするような口調で、彼女を指差しながら雑な紹介をする龍助、どうやら彼女はよく眠っているということだった。


だから眠り姫。柳永は寝不足なのかなと思ったが、今朝からの記憶で、彼女の耳は、ピコピコとウサギみたいに動いていたのを思い出す。


「んん、八重草 心 バカ男子は黙っとれ」


彼女は、んん、といった後に体を起こし、龍助が自分を指していた、指を鬱陶しそうに手で軽くはたき睨みつける。


「今のは自己紹介してくれたのかな?」


「ん……‥」


柳永が、尋ねると2人の視線が交差し目が合う。絹のようにサラサラとした髪に、ロングヘアだが、広いおでこが可愛らしく目は怠そうな、ジト目というやつだろうか?その容姿から幼さを残した可愛らしい女の子がそこにはいた。だかそれも終わりを迎える。

目が合い数秒もしない内に、彼女の頬が赤みを帯びるとともにまた顔を伏せてしまった。


「口悪い寝てばっかりの腹黒ブスにバカ言われたくないわ」

そんな彼女に見惚れていると、隣から声がする。


指を叩かれた龍助は悪意のある言葉で彼女に暴言を吐いた。昔から、龍助は頭に血が上ると口が悪くなる癖は5年後の今も治っていないようだった。


「ん〜?」

反論するように、唸る彼女だったが、それよりも友人の悪口を、悪口と思わず昔のままだと素直に受け止めてしまっている自分がいた。

昔から龍助が悪口を言った時は柳永がフォローしていたことも関係していたのであろう。口から出たのは、わざとではなくそんな昔からのやりとりの延長であった。


「そうか?喋り方気軽に話せそうで親近感湧くし、髪も絹みたいに綺麗で、顔もちらっと睨むくらいしか見えなかったけど凄く可愛いと思うけど?」


「ん〜んん?」

耳がピクピクと動き、それが愛らしい思い、苦笑しながらありのままを龍助に伝える。なんとなくだが、龍助とこの子は口が悪いところは一緒だし、言い合いながら仲良く出来そうな気がしたから良さを伝えようとして言葉を紡ぐ。


「それによく耳動いてるからちゃんとクラスのこと」

「んー!」

先ほどよりも大きな唸り声とととに、身体をバッと起こし、立ち上がり、こちらを頬に赤みを帯びながら睨んでくる。


「あ、起きた!ほら見てみブスは失礼だよ?龍助この子美少女だよ?あ、えーとこころっち顔少し赤いけど大丈夫?あ、こころっちて気安すぎたかな?」


なんて呼べばよいのか、さん付けするような年齢に見えず、自分の親しみを込めやすいようにあだ名をつけて呼んでみるが、気安かったかと謝罪をする。


「う、うるさいの極まれりよ体育だから、行くの」


そういいつつ、教室のドアまで向かう彼女。途中、机の角に足がぶつかり思わず声をかけた。

「あ、気をつけてね」


「ん、ありがとうて違うわ!こころっちは許すから黙っとれ」


相変わらず口は綺麗ではないが、あだ名を許してくれた様子だった。人差し指を立てるオマケ付きだったが、よくプロサッカー選手がやっている中指を立てるものと一緒の意のつもりなのだろうが、間違えていることに柳永は笑みが隠せなかった。


「ぷっありがとうこころっちあと!体操着多分だけど忘れてるよ」


その言葉を聞き、彼女は今日1番頬を赤くし、席の前までくると、体育着の入った服を取り、足音を立てようとしているが、体重が軽いからか、スカスカと音が聞こえそうな足取りで、捨て台詞をいい教室を後にした。


「ん!ふんふんふんふん!お礼はいわんからな」


「ぷっ、うんっわかったよこころっち」

「ふふふ、なんか小学校の時の同級生みたい話しやすいな」


なんだが、ほっとけないような子だったなと言う印象を受けるとともに、笑いすぎで目から少し雫が溢れた。

それをはたからみていた今まで空気だった龍助から、呆れる様子で問われる。


「お前ああいうのタイプだったか?しかし、眠り姫があんなに喋るの初めてだな、お前らもしかして知り合い?ってお前記憶喪失なんか」


「タイプて言うのは良くわからないけど可愛らしい女の子だよね、多分初対面だよ?」


笑顔でそう、今の出来事を思い出し返事を返す柳永。


「じごろか、2枚目だし女子がほっとかねぇな」


「うん?一応彼女いるよ、昨日色々教えてもらった」


難しい言葉を使う龍助に、この5年間で知識も身についているんだなと感心しつつ、疑問形になってしまったが昨日のことを思い出しつつ返事を返す。


「まじでか、なんで今まで内緒にしてんだよ昼間の件もあるけどアリスちゃんも月見も眠り姫も大変だな」


「そのアリスさんのお姉さんが彼女らしいよ?」


これまた、疑問形になってしまったが、シャルは自称彼女であり、過去からきた自分からしたら綺麗な大人の女性という印象しか今のところないためそのような返事になってしまった。


「ま?ヤベェなアリスのお姉さんなら可愛いんだろうな」


「綺麗だと思うけど?、それよりなんでみっちゃんとこころっちの名前出てきたの?友達の話し?」 



「うん、なんでもないわ。なんか凄いわお前」




当たり前のように綺麗と口走る友人に尊敬と、好意に対して=友人と言える鈍感さに記憶喪失でここまで性格は変わるのかと関心する龍助であった。

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