第4話 母子同伴での登校
桜の木も、緑が生い茂りそのすぐ下には満開に咲いていた痕跡を残した跡が、まるで地面に咲く満開の桜のように視界いっぱいに広がる快晴の下和歌鷹 柳永は1人気分が沈んでいた。
「なんでこうなった」
「さぁりゅうちゃん登校しましょ!」
原因はこの元気な返事をする母親の所為なのは明らかだ。
何故自分よりも元気で、登校する気満々なのかはわからない。5年後の世界に来て不安だらけで胃が痛いのにさらにキシキシと傷んでるのがわかる。
そして……細身の腕のどこから出ているかわからない力で校門をくぐり職員室へと連行された。
その間、様々な生徒勿論所属しているサッカー部や同じネクタイの人などにも見られながら……。
「ということなんですどうかよろしくお願いします」
「はぁ、本当ですか?だとしたら昨日飛び出して行ったのも訳も分からず…そうだったのか……なぁ和歌鷹俺が誰かわかるか?」
「えーと……すいませんわかりません目つきの怖い先生だなとしか……」
「まじか……サッカーの顧問やってる高崎なんだけど……まじか……」
どうやらこのまじかを連呼しているのが、自分の担任であり、サッカー部の顧問の高崎先生らしい。
見るからにがっしりした体型に目つきがキツネのように鋭く、怒ったら絶対怖いことがわかる。声調もワントーン他の男性よりも低く、髪がツンツンしていて、一言で言うと怖い元ヤンの先生だった。
それから母親は、担任兼サッカー部顧問の高崎先生と話し、とりあえず1週間はサッカー部をお休みしたいことを告げていた。
その間
「お前?サッカーやる気あるの?」
「はい、サッカー大好きなので!それしかないので!」
「学校赤点取りまくったら留年だけど、そこは便宜無理だぞ?」
「はい、頑張ります」
などのやりとりがあり、母親は心配していたが、記憶が戻ればと、成績のことも仕方ないと言っていた。
だが、母親は甘いが、家はその分父が厳格な人のため、俺が小刻みにブルンと震え、1人不安を抱えていると、母親より。
「大丈夫よあの人連絡して事情話したら「そうか」てだけでしたもの」
そんなはずはないと、言い切れる自信があった。
あの父親、記憶が新しいがサッカーに関しては鬼のようにスパルタで、家では礼儀作法、敬語に厳しく、説教を良く受けていたからだ。
記憶喪失になりました!そうか!だけで済まされるはずがなく、なら一から教えて鍛え直すか?勉強もサッカーも……やれば思い出すだろう?と真面目な顔で平然と言うような頭のネジが少し跳んだ熱血でスパルタな父親が想像できた。
それが5年で変わるはずがないだろ……と心の中で母親に愚痴る。
ある程度の話し合いが終わり、高崎先生から声をかけられ返事をする。
「それでは私がホームルームと一緒に和歌鷹を連れて行きます。その時事情をお話ししても?」
「ええ、そのようにお願いしますほら!りゅうちゃんも」
「はい、高崎先生お願いします!」
「お前まじなんだな、そんな素直な挨拶できたのか……まじか」
先生の驚きから、今の自分てどんなのだったのだろうと気になったが、母親といる恥ずかしさから解放される嬉しさとともに、大きなお兄ちゃん、お姉ちゃん、自分から見たら大人な人たちがいる中に1人取り残される。心細さもあった。唯一の救いはまだ知ってる月見ちゃんがいることぐらいだった。
母親と別れ先生と教室に向かう、教室は3回にあるとのことだった。階段を登ってる最中先生に声をかけられる。
「お前の母親綺麗だよな、まじかあれはまじだよな」
「へ?」
「ほらお前みたいな子どもいるのに若く見えるて話しだよ?ちょっと雰囲気良くして見ようと思ったがまじが、失敗だな」
「はぁ、ありがとう……ございます?」
「あぁ、いつ記憶思い出すかわからないし、今も何もわからなくて不安だと思ってな」
それから沈黙のまま教室の目の前につく。不器用ながら場を和ませようとしてくれたことはなんとなくわかった。父親もなんだか似たようなことをすることがあったからだが、高崎先生の渾身の和み術は柳永に届かず、大人は不器用なんだなと感じただけだった。
そんな考えもすぐに教室のドアの前に来て不安が押し寄せてくる。教室から漏れるざわめき声も原因である。
耳を澄ませると話している内容が入ってきた。
「美人さんと登校てエイちゃんまじか」
「年上らしいよ?」
「昨日飛び出した時も体育のやつに聞いたけど美人と帰宅したって」
「もしかして出来ちゃったとか?」
「昨日朝から変だったもんな心ここに在らずて感じで」
「たしかにー!」
心臓の鼓動が早くなり、締め付けるような痛みが押し寄せてくる。
(子どもの頃に戻りたい龍助、上原……)
今は過去になってしまった3日前まで一緒にサッカーをしていた小学校時代のクラブの仲間の名前を心の中で呟く。そんなことをしても意味がないことはわかるが、不安の緊張からせざるを得なかった。
「入るぞ?不安だとは思うが慣れなきゃいけんからな」
「はい……」
声に力はないが返事をし、了承の意を伝える。
それを汲み取ったのかこちらを見て頷き、ドアを開けた。
「………………」
ドアの開く音に気づいた様子で一瞬で会話をする人はいなくなり、先程とは違い静寂が教室を支配していた。だが視線だけは全員和歌鷹に集中しており、手先から筋肉が痺れるような感覚、自分の心臓の音がうるさい程自分の中で呼応していた。
「えーホームルームを始めるだがまず和歌鷹の説明からだな」
「やっぱりなんかあったんだよっ」
「うそー!わたしいや……」
「まじかよえいちゃん!」
「最高じゃねぇかなぁ!……なぁ?すいません」
ざわっと一部より声が上がるが、それもすぐに
先生が睨みを効かせ一瞥することで再び静寂に包まれる。
ごほんと咳払いをし話を続ける。
「和歌鷹だが、記憶喪失になってしまったらしい……今朝お母様よりお伺いし昨日病院にも受診したそうだ」
「記憶がいつ戻るかわからないが、今まで通り接して欲しいのと、色々とクラスメイトとして助けてやってくれ以上だ、和歌鷹の席はあそこの窓際の空いてる席だからそこに座るように」
少しざわめきがあったが、先程のように話し声は聞こえてこなかった。指を刺された方向を見ると席が確かに空いており、「皆さんよろしくお願いします」と挨拶をして俯きながら向かい座った。
「んじゃ出席確認するぞ……」
和歌鷹が席に座ったのを確認し朝のホームルームが始まったのであった。
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