『一寸の國』編

「赤鬼さん、この國のヴィランはどんな人なんですか?」


「ここは『一寸の國』っていってな、俺たちと同じ鬼だよ」


「鬼!?僕と赤鬼さん以外の鬼は全滅したはずでは?」


「それは俺たちの國の話だろ。この國の鬼はまだ生きてるよ。

生きてるって言っても、この國の鬼は最初からあいつ一人だけなんだけどな」


二人がそんな話をしていると、

「おい!貴様ら何者だ!?俺の國で何をしている?」

何処からともなく現れた彼は、二人にそう言った。


「よう!久しぶりだな、八瀬童子(やせどうじ)」


「馴れ馴れしく俺の名前を呼ぶな。俺はお前みたいな奴とは会ったことも・・・。ちょっと待て、あんたもしかして、酒呑童子(しゅてんどうじ)さんか?“最強のヴィラン”の酒呑童子さんだよな!?」


赤鬼に八瀬童子と呼ばれた彼は、目をキラキラ輝かせながら赤鬼に駆け寄った。


「そう興奮するなって。実はお前に一つ頼みがあって、俺はここへ来たんだよ」


赤鬼は興奮状態の八瀬童子をなだめると、この國に来た理由を彼に話した。




「なるほど、事情は分かりました。ですが、僕のような未熟なヴィランは、他の國へ行くだけで身体が消滅してしまう。申し訳ないですが、あなたの力にはなれそうにありません・・・」


「大丈夫だ、そのことは俺もわかってる。お前を無理矢理、俺たちの國へ連れて行くような事はしないさ。その代わり、それを俺にくれないか?」


赤鬼はそう言うと、八瀬童子の腹を指さした。


「この國のヒーローは、今もまだお前の腹の中にいるんだろ?なんて言ったっけな。たしか、一寸とかいったか?」


赤鬼は八瀬童子の腹をじっと見つめながら言った。


「・・・どうしてその事を?それに、一寸の野郎がどうして必要なんですか?」


「俺が欲しいのはそいつじゃなくて、その一寸って奴が持っている刀だよ」


「奴なら、あと一ヶ月は僕の身体から出てこないでしょう。奴は身体の中から、僕を殺すつもりです。何度試しても、あいつは僕の身体から出てこないんです・・・」


すると赤鬼は、

「少し痛むが、我慢してくれ」

そう言って、右手で八瀬童子の腹をえぐり取った。


えぐり取った腹の中には一寸がおり、赤鬼は左手の親指と人差し指で一寸をプチンと潰した。


「赤・・・鬼・・・さん」


口から血を吐き、目からは涙をボロボロとこぼしながら、八瀬童子は赤鬼の右腕をグッと握った。


「大丈夫だよ、八瀬童子。お前は死なない。青鬼、悪いがアレをお願いできるか」


赤鬼にそう言われた青鬼は、

八瀬童子の腹に手を置くと『逆光ノ刻(ケアル)』と呟いた。


すると、青鬼の手は白い光に包まれ、

八瀬童子のえぐり取られた腹がみるみると元通りになっていった。




「僕の『逆光ノ刻(ケアル)』はまだまだ魔力が弱いですが、

これで一先ずは大丈夫だと思います」


八瀬童子の腹が完全に元通りになると、青鬼はそう言った。


「よくやった。悪いが、ついでにそこにある小槌を取ってくれないか?」


青鬼はすぐそばに落ちていた小槌を拾い上げると、それを赤鬼に渡した。


小槌を受け取った赤鬼は、一寸が持っていた針のように小さな刀に、その小槌をコツンと当てた。


すると、針のように小さかった刀がみるみる大きくなり、立派な刀へと姿を変えた。


その刀は、見るからに禍々しいオーラを放っていた。


「この刀って、もしかして『童子切安綱(どうじきりやすつな)』ですか?」

目を丸くしながら、青鬼はそう尋ねた。


「ああ、そうだ。“鬼殺し”の際に活躍した一振りであり、“村正”に並ぶ妖刀だ。さぁ、次の國へ行こう。もうこの國には用はない」


気絶したままの八瀬童子を一人残し、二人は次の國へ行くために本の中に吸い込まれた。

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異世界と桃太郎と十の鬼 鉄生 裕 @yu_tetuki

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