煙のドラゴン
ベランダで煙草を吸っていた。彼女が煙草を嫌がるからだ。彼女は今眠っているが、いつ起きるかわからないので、こうしてベランダで吸っている。
俺は趣味らしい趣味もないし、酒も飲めない。パチンコもやらない。唯一の娯楽は煙草だけだ。しかし彼女が嫌がるので、最近は本数が減っている。
煙を吐きながら、今後どうしようか考えた。
俺は高校を卒業した後、何をすることもなく、だらだらとフリーターを続けている。
何をしたいとか、どうなりたいとか、あったはずなのに、今となっては夢も希望も失ってしまった。バイトに行き、煙草を吸い、彼女から金をもらって暮らしている。こんな生活を続けていても、どうにもならない。そのことはわかっているのだけれど。
俺の高校時代の同級生は大学を卒業し、就職をしている。結婚したやつも多い。俺は今何をしている?何にもしていない。惰性で生きているだけだ。
空を流れる雲を眺めながら、煙草の味を噛み締めた。
「お前は自分が嫌いか?」
誰かに話しかけれた。誰だろうと思った。彼女ではない。低く、野太い声だったからだ。
ふと横を見ると、煙がだんだんとより集まり、形を成していった。
やがてその煙は、小さいドラゴンのような姿になった。
「質問に答えろよ。お前は自分が嫌いか?」
どうだろう。少し考えてみた。
「嫌いかもしれない」
「かもしれないなんて曖昧なことを言うな。好きか?嫌いか?」
「どちらかと言えば嫌いだな」
「ふむ。なら変わりたいと思うか?別の誰かになりたいとか」
また黙って考えた。
「変わりたい、か。どうだろう。変わりたい気もするし、変わりたくない気もする」
「どうしてそう思う?」
「わからない」
「考えるんだ」
だんだん頭が痛くなってきた。俺はこれからどうしたいのだ?どうすれば良いんだ?
「誰かに、認められたいのかもしれない」
「誰かとは誰だ」
「誰かさ。誰でもいい。自分を認めて欲しいのかも」
「彼女がいるじゃないか」
「仕事面で、ということだよ。自分の力量を知りたいし、試したいんだ」
「ならお前のするべきことは何だ?」
「挑戦すること。でも簡単じゃないよ。俺には勇気が足りない。いつもそうなんだ。勇気がない。どうしてだろう。自分に自信がないからかもしれない」
そうか。俺は自信がないのか。だから挑戦できない。
そして俺は結局、誰かに褒められたいだけなのかもしれない。
「時間がかかるんだ」
俺は言った。
「何事も、すぐには変わらないし、変えられない。挑戦する勇気を持つことも、自分に自信を持つことも、簡単じゃない。時間をかけてもいい。少しずつ変わっていけば。そう思う」
ふと煙のドラゴンの方を見た。彼はとっくに消えていた。俺はもう一度煙を吐いた。でもドラゴンは現れなかった。
彼女が起きてきた。起きがけに、
「何してたの?」
と訊いてきた。
「人生相談だよ」
俺はそう言った。
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