第7話 ミントと野営 ②

スバルは茂みにはいり、腰を下ろす。


「ふぅ…にしても改めていろいろあったな」


 滅んだ街、人生初の敗北、敵からの味方……。


 いい塩梅の人生のスパイスであった。


「よし…と、さっさと寝よう。明日も早い」


 立ち上がるスバル。すると巨大なダチョウ型の魔物の横顔が目の前にあった。


「……」


 無言になるスバル。ダチョウ型は目をぎょろぎょろさせている。


 武器はテントに置いてきた。なお、あったとしても半分折れている。素手での戦闘はスバルの得意とするところではない。


 ダチョウ型は、スバルの身長ほどもある巨大な背丈。襲われればじゅうぶん致命。


 ファイアボールで牽制する方法もあった。しかし下手に火に怯えて、暴れ出せば厄介。どうやら鳥らしく夜目のようで、魔物はこちらには気づいていないようである。


「………」


 深呼吸し、足音を立てないように、スバルはそろりそろりとその場を去ろうとする。



「あ!スバルさん!寝袋どっち使ったらいいですか!?」


 突然の大声。スバルの背筋が凍る。


 向こうでユウジが無神経に声を張っている。


「てめぇ…」


 怒りつつ、恐る恐る後ろを振り返ると、ダチョウと目があった。


「グワァグワァグワァ!」


「くそ!ファイアボール!」


 手のひらから火球が放たれる。ダチョウは近距離で撃たれたそれをいとも簡単にかわし、クチバシでスバルの喉元を狙ってきた。


「やば……」


 咄嗟に腕で防ごうとするも、間に合わない。


 こんなところで?


 スバルは死を連想する。


「グワァ…!?ガ、、ガ、」


 が、ダチョウが突然泡を吹いて倒れた。白目を剥いている。


 どうやら死は回避された。汗が一気に噴き出る。


「ちょっとー!スバルさん気をつけてくださいよ!


 ユウジがぷんぷんと怒っている。


「僕がミントを飛ばさなきゃ危なかったですよ!はやくこっちで寝ましょう!」


「ミントを…飛ばす???」


 聞きなれない単語にもやもやしながら、スバルはダチョウの死骸を尻目に、テントに戻る。


「な、なあどうやったんだ?あれ」


「え?ミントの種子を飛ばして、ダチョウの心臓に生やした根で殺しただけですよ」


「……」


 絶句するスバル。そんなことも、できたのか。


 だとすれば、本来ならばユウジはスバルとの戦いで圧倒的に手加減していたということになる。


 急激に自信をなくすスバル。


「眠いんだから早く寝ましょうよ。テントの周りにデスグリズリーの尿を撒いとくんで、もうほかの魔物は来ないんで」


「……ありがとよ」


 ユウジの安らかな寝顔と対照的に、スバルは寝つきが悪かったという。


 ただ、よくよく思い返せば久しぶりに、女の子らしく、男に守ってもらえたことに気づいたスバルは、翌日にはそれなりに機嫌を取り戻していた。

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