第6話 ミントと野営 ①


 一晩明けて、スバルは地図を広げ、説明する。


「ここが旧トースターの街だろ、んでここからまずひとつ山を越える」


「旧?」


「最新の地図だからな、トースターはもう滅んだ扱いされてんだよ世間的には」


 罪悪感を植え付けようとするも、ユウジはほえーと気の抜けた返事をした。


 スバルは説明を続ける。


「そこからしばらく歩いて野宿、次の日また山を越え、また野宿、次の日最後の山を越えて野宿。ここから平坦な道を2日歩いて、私が依頼を受けたギルドのある街『ランスパンフ』だ」


「……ほうほう?そこに僕は永住すると?」


「人生にゴールはねぇ一生歩き続けろ。ここでギルド長に説明して、次は王都へ向かって正式に免罪符をもらう。ここからようやく自由だ」


「なるほど、つまりまずは…5日間歩き続けるってことですね?はー!めっちゃ嫌です!」


「嫌なことへの主張が強い」


 スバルは大きなリュックを背負った。


「荷物はだいたい私が持ってやるんだから、文句言うな。いちおう私女の子なんだからな?普通こういうの、男が持つんだからな?」


「そういうの古いっすよ男女平等で行きましょう」


 ユウジは可愛い猫ちゃんのポーチを腰に巻きつけた。中には飴やクッキーが入っている。


「かわいいのつけやがって」


「この魔物強かったんですよね…殺されかけました」

 

「生皮素材なのかよ」


 スバルとユウジはボロ家を出た。


 こうしてふたりの冒険ははじまった。



 トースターの街を歩くと、相変わらず真緑の街だった。しかも、昨日スバルが焼き払ったはずの道には、すでに新しいミントが生えて緑の舗装が完了していた。


「さすがにうんざりするなこの繁殖力」


「都会の人は緑が恋しいとかふざけたことを抜かしますよね、緑は街路樹生えてるくらいがちょうどいいんですよ」


 トースターの街の看板には落書きがされていた。


《魔女に滅ぼされた街!》


「………」


 スバルは一瞥して通り過ぎる。


 住人が描いたのだろうか。だとしたら捨て台詞である。


 街の外の道にはミントがあまり広がっていなかった。スバルは不思議に思い、ユウジに尋ねる。


「うーん、どんなに繁殖力強いって言っても街の外にはほかにも雑草がありますからね、どこか限界があるものなのかもしれません」


 しかし、ユウジのレベルが上がれば、ミントの繁殖力はあがるとのことだった。


 先日ユウジが言った『拠点に篭りながら世界をミントまみれにする』もレベルによっては可能なのかもしれない。


 スバルは底の見えない能力に身震いした。


「お前が世界に絶望しないことを望むよ」


「なんです突然?」



 最初の登山は、それほどたいへんではなかった。行商人がよく通るため、道がある程度整っていたのだ。


 ふたりは、日が落ちる前に沢で野営準備をする。簡易のテントのようなものを使った。


「ふぅーまだ季節的に水は冷たすぎないな、あとで水浴びするか」


「この水ちゃんと飲めるんですね。よかった。水筒に汲んでおきます」


 焚き火をして、干し肉を食い、気づけば夜が更けていく。


「ちょっとションベンに」


 スバルは寝る前に、と立ち上がる。


「気をつけてくださいね」


 ユウジが手を振る。



 

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