第5話 ミントティータイム
ユニークスキル名【MINT】
・無からミントを発生させる。
・ミントはスキル所持者のレベルによってその性質が強化される。
(例 繁殖力、香り、薬効など
・発生させたミントはスキル所持者によって消失させることも可能
「いや消失させることできるんかい!」
スバルは叫んだ。その振動に手元のミントティーが少しこぼれた。
「そりゃそうでしょう僕のMP(マジックポイント)で生み出してるんですから」
ユウジはズズズ、とティーを啜った。
スバルは戦いの後、ボロ家に招かれた。優しい倒され方をしたので、怪我などなかったが、ミントの薬草効果で治癒してやると言われたのだ。
ユウジの捕縛は諦めたものの、スバルにはギルドへ本件の報告義務があったので、招かれついでにユウジに話を聞いていた。
「じゃあなんで街中のミントは消さないんだ!事故ならともかく…ズズ…その…な?故意なら確信犯ってやつ…だろ!」
スバルは憤慨して捲し立てようとするも、ミントティーを啜ると、落ち着いてしまった。
「僕が消せるのは僕が最初に生み出したミント一株のみなんですよ。繁殖して増えた分は管轄外です。もう少しレベルが上がったら繁殖分も消せるようになるかもしれないですけど」
ユウジの説明に、スバルは唸る。ならば責任は問えない、のか…?いや、最初の一株を発生させたのはやはり悪い。
スバルはギルドに戻ったら、王都から兵を向かわせるように要請してみようと考えた。
「つーかなんなんだよこのミントって植物は。ちょっと異常だぞ?こんな繁殖力、生態系壊しちまうだろ」
「そうですよね、正直僕も引いてます」
ユウジはキッチンの方から干し肉を持ってきた。
「どうぞ、長旅でしたしお腹すいてるでしょう。あと今夜はもう泊まっててください。日が暮れます」
「……おう」
スバルは干し肉を受け取った。そうだ、宿は取っていなかった。そもそもこの街には宿がなかったのだ。
干し肉はジューシーでとてもうまかった。スバルは良家出身なのでいい食べ物は食べてきたはずだがそんな彼女の舌をも唸らせる美味であった。
「なんの肉だ?これ」
「クマ的な…あれこの世界クマいるんだっけ?その、でっかい魔物ですよ」
スバルはふぅんと肉を眺める。ずいぶんと美味い魔物もいたものだ、と感心した。
「そうだ思い出した、オーバーデスグリズリーです」
「ああん!?嘘つけぇ!?」
スバルは思わず立ち上がる。
オーバーデスグリズリーとは、遭遇したら逃げるが基本、
村近くに出現すればお香を炊いて近づけないなどの対応を取るしかない、第一種危険指定の魔物である。
そんな魔物をこの青年はミントごときの能力で倒したというのか。
にわかに信じがたかった。
ユウジはため息をつく。
「実はこのスキルで街を滅ぼしてしまったとき、女神様からお告げがありまして」
『あなたはなにをしてるんですか?街ひとつ滅ぼすって馬鹿なんじゃないですか?あなたは魔王を倒すように送り出したんですよ?
ふぅー仕方ありません、あなたは危険です。責任を持って私が始末します』
「……ってな感じで、女神様の運命操作で僕は通常より魔物に遭遇しやすい運命にされてしまったんですよ。いやぁ倒せてよかった」
「自業自得すぎる」
スバルはもう何度目かわからないが呆れた。
ユウジは伏し目がちに語る。
「最初はこのミントスキルを訓練するために、人里から離れた、この広い庭のある家を買ったんです。
でもうっかり街を滅ぼして、女神様からも暗殺宣言されてからちょっと…心折れまして…」
「…………」
「いっそこの家を拠点にミントを広げていって、最終的に世界ごとミントまみれにして魔王城を滅ぼそうかと」
「いやそうはならんだろ」
「冗談ですよ、はっはっは」
スバルは頭を抱えた。強力なスキルを持つ割に、ユウジには倫理観が希薄だ。なんとかコントロールしないと、いつか第二第三のトースター街の悲劇がおこる。
そこで、スバルは提案することにした。
「なあ、ユウジ。お前私と組んで冒険者にならないか?」
きょとんとするユウジ。考えもしなかったという顔だった。
「冒険者、ですか?……転生した時に、こんなスキルじゃ旅しても即死だと思って早々に諦めてました。ほんとはミント農家として大富豪になって、経済力で魔王と戦おうとしてたんですけど」
スバルは、折れた剣を見せる。
「私は自慢じゃないがギルドの冒険者ランクはA級だ。いちばん上にS級はあるが、そのすぐ下だ。つまりかなり強い。その私をお前は倒したんだぞ」
「おだてますね」
「茶化すな。お前は強いんだ。冒険者としてもやっていける。私とついてこい!」
「……でも」
「来ないと王都に『軍』の派遣を要請するぞ!てめえガチ目の犯罪者なんだからな!」
「あっそれはやばそう」
「いまなら私のコネで大事にならないようにしてやる」
「……あー」
着いてきます、と。
こうしてスバルは、ユウジの言質を取ることに成功したのだった。
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