第3話 ミントの力

「……はぁ血の気の多いひとですね」


 

 ユウジは頭をポリポリとかく。


「負けたら帰ってくださ /いよ?」


 

 ユウジの言葉を遮るように刀を振るうスバル。峰打ちではなく、刃のほうで胴を狙った一振り。


 しかしスバルの刃はユウジに届かなかった。


「……?」


 距離感を間違えたわけではない。長年の愛刀、リーチは把握している。しかし、空振りした。


「……すみません、もしかしてその武器思い入れあったりしました?」


 申し訳なさそうなユウジ。


「……てめぇ」


 スバルの長刀が半分近く、消失していた。


 足元に散らばる銀色の破片。一瞬のうちに、なんらかの方法でユウジはスバルの刀を折ったのだ。


「ちっ!」


 舌打ちをして、前蹴りを繰り出すスバル。さすがにこれにはユウジも慌てて後退する。


「わわっ得物失ったんだから諦めてくださいよこっちはそんな本気でやりあうつもりないんですから」


「るせえ!ファイア…」


「火魔法はやめてくださいよ!うち木造ですよ!?」


 ユウジはスバルの横をくぐり抜け、慌てて庭に出る。火球を家に当てさせたくなかった。


「打つならこっちです!」


「舐めんな!ファイアボール!」


 ボウ!スバルの手のひらから火球が発射される。ユウジは走ってそれをかわす。



「ちょっとあつ!服燃えてないかな…?」


 スバルは確信する。彼は火魔法を防ぐ手段を持ち合わせていない。このまま火球を打ち続けていれば、いずれ当たる。


 スバルは折れた刀を右手に、左手で火球を飛ばしながら、ユウジに特攻してくる。


「くらえ!」


「わわ、そんな走ると危ないですよ」


「うるせ…ぐわぁ!?」


 バタン!と派手に転ぶスバル。顔から地面をお出迎え、鼻にミントの香りが充満する。


「ほら言わんこっちゃない…」


 スバルは起きあがろうとするも動けないことに気がつく。足に目を向けると、靴に緑色の芽が見えた。


 やがて腕の自由もなくなっているのに気がつく。袖あたりに生えたミントが、根をはり、土と服を縫い合わせていたのだ。


「おまっ!この!くそ!」


 どんどんスバルの全身がミントに侵されていく。喚いてもどうにもならない。一本、また一本とミントが根を張り、スバルと地面を縫い合わせていく。



 あっというまにスバルはミントまみれになった。


「……安心してください。ミントはどこにでも生やせますが、殺すつもりはなかったのであなたの肉体には根を張らないようにしました」


 ユウジの声が近づくが、スバルは顔があげられない。身動きひとつ取れない。


「……っ!」


「諦めてくれますか?」



 この日、はじめてスバルは負けを認めた。

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