11 絡み合うイベント
「小手先の誤魔化しなのに手間取っちゃったね……」
倒したふたりの男はそれぞれ鍵を持っていたが、その守っていたであろう扉のそれでは無かった。
他にこの扉に合う鍵があるのかと奥に進んだが、そこは違法奴隷商のアジトになっていたらしく囲まれた挙げ句に袋叩きに近い状態にあった。
結局自分たちはその場から何とか逃げ帰って来て、仕切り直すカタチとなったのだった。
仕切り直して分かった事は対岸に居る男が持つ鍵が扉に対応していたのだが、これ一人でイベントを進めようとするなら完全に詰むタイプの作りである事も分かった。
何故なら一人で挑もうとすると対岸に居る男が奥に居る仲間を呼びに行き、物量による戦力差で押し切るカタチを取るからだ。
敵一人ひとりの強さはそれ程でも無いのだが、物量で押し切られるとなると場所的にも回避するのは難しくなり、それぞれのタイミングで攻撃を仕掛けて来る為に盾を使って攻撃をいなす事も出来なくなる。
そんな状態で細かく生命力を削られて行き、力尽きる事となる訳だ。
偶然とは言えツヨシ君と組んで挑んでいた事は本当ラッキーだったとしか言いようが無い。
「お兄ちゃんたち、痛いことしない?」
扉を開け、中を確認すると十歳にはなっていないであろう少年少女達が六人程が粗末な格好のまま閉じ込められていた。
扉の一番近くに居た少女が扉を開けた私を無視してツヨシ君に対してそう問い掛ける。
イベント自体は私が受けたものだが、この部屋はツヨシ君に関わるイベントのものらしい。
エデンにおけるイベントは種族や性別によって様々なものが存在し、それに関わるNPCはその該当の人物にしか反応しない。
この世界においてもその条件は変わらないようだ。
「えっと……」
ツヨシ君はどう対応していいか分からないといった様子で私に助けを求める。
「ツヨシ君が思うようにしたらいいよ」
イベントの流れは半ば強制的に話は進んで行くため、どの様な行動をしても同じような終焉にたどり着く。
なので余程酷い対応をしなければ決まった終わり方を迎える。
「痛い事はしないよ、僕たちは君たちを助けに来たんだ。一緒にここを出ようね」
そう言ってツヨシ君は話しかけて来た少女の頭の上に手を乗せ、優しく語りかけた。
すると話しかけて来た少女は部屋の奥で身を寄せてこちらの様子を見ていた少年少女たちに駆け寄り、何やら話はじめた。
「それじゃアタイはもうひとつの部屋の方を見て来るよ」
そう言って用水路を挟んでもうひとつの扉に向かう。
「卑劣な者には我々は決して屈しない! 我らをどうにかしたいなら……」
もう一方の部屋に閉じ込められた者達と比べると、こちらは扉を開けた瞬間、殺気を向けられているようなそんな言葉を投げ付けられた。
だがその言葉が進むにつれ、その勢いは衰え、扉を開けた者が同族であるのを確認すると勢いのあった言葉は立ち消えた。
「ルララに頼まれ助けに来たよ。それだけ元気なら問題は無いみたいだね」
見た目だけで言えば向こうの部屋に押し込められている者達と然程変わらないが、ミローリ族はそんな見た目であっても成人していたりする。
そんなミローリ族が四人、勢いで言葉を発しっていたのは男性のミローリ族であったが、それ以外は全て女性だった。
「そうか、ルララは無事助けを呼ぶ事が出来たんだな。助けに来てくれた貴方に感謝を。」
ミローリの男性はそう言って後ろに控えていた他四人のミローリ族に視線で合図を送ると、私が地下水路に入り込んで来たマンホールの方を目指し、全ての人が部屋から出て行ってしまった。
「何ともあっけないものだね」
マンホールに向かう五人のミローリ族を見送りながら私はそんな言葉を漏らし、再度ツヨシ君の所に戻った。
「それじゃ今から帰るから、静かに着いて来るだよ」
ツヨシ君の所に戻ると彼は部屋に居た子供達にそんな指示を出していた。
その彼の言葉に頷き、ツヨシ君の周りに集まる彼ら。
先程のミローリ族の反応と違いこちらは何とも可愛らしい様子だ。
「ツヨシ君は抜けて来たゴーレムが居たら頼むよ」
六人もの子供を引き連れたままこの地下水道を歩くと云うのは、帰り道で出会うであろう砂のゴーレムから彼らを護衛して出口まで向かわなければならない事を意味している。
お互いの役割を決め、気合を入れ直し出口であるマンホールに向けて歩き出した。
だが心配していた砂のゴーレムとの戦闘は起こらなかった。
いや、実際にはゴーレムとの戦闘はあったのだが、それは先に部屋を出ていたミロール族によって片付けられていたのだった。
緊張しながら地下水道を進んでいたが、先に部屋を出ていた四人のミローリ族は一体のゴーレムを囲み、次々と殴り倒していく。
え? ミローリ族って見た目の可愛さに反して戦闘民族だったの?
そんな思いすら抱いてしまうような光景だった。
ツヨシ君なんて近くに居た少女の顔をその手で覆い、あまりにも一方的な戦闘を見せないようにする程だった。
「まさかお前がここ最近騒ぎになっていた行方不明事件を解決するとはな」
子どもたちを連れてマンホールを出ると、そこには傭兵ギルドのマスターが腕組をし仁王立ちした状態でツヨシ君にそう話しかけて来た。
「え? 師匠、これはどういう事です?」
ツヨシ君は意味が分からないといった様子で私に聞いて来る。
聞いて来られても私自身だって分かる訳が無い。
「多分イベントの途中から話が進んでいるんじゃないかと思うよ。とりあえず話を聞いてどうするかはツヨシ君が決めると良いよ、それはツヨシ君のイベントだ」
今回は複数のイベントが絡み合っており、正規の解決法では無く人間族のクリア条件だけを満たしてしまい、途中から話が進行している可能性をツヨシ君に告げる。
傭兵ギルドのマスターはツヨシ君の返事を腕組したまま黙って待っている。
「たまたま運が良かっただけです」
ツヨシ君はどうとでも取れるような返事を傭兵ギルドのマスターに対して答える。
「彼らの身元はこちらで調べた後、親元に帰す。今回の報酬は後でギルドまで取りに来てくれ」
そう言うと私達の後ろに居た子供たちは傭兵ギルドマスターの元に移動し、そのまま彼の後に着いて行く。
そして最初にツヨシ君に話しかけて来たであろう少女が手を振りながらその場を去って行く。
「何だかあっけなく終わった感じでしたね」
手を振る少女の姿が見えなくなるとツヨシ君はそう呟く。
「そうだね、あとはでイベントの報酬を貰って終わりだろうね」
イベントがはじまった時はもう少し手こずると思っていたイベントは拍子抜けする程あっけなく終わり、しかも戻ってみれば本来のスタートとは違うイベントだったであろうツヨシ君のものまで解決しているという、何ともモヤモヤした感じの終わりを迎えた。
「とりあえず私はルララの所へ、ツヨシ君は傭兵ギルドへ行って報酬を貰うとするかね」
そう言って、それぞれの報酬を貰いに行く為に別行動を提案した。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「同胞を救って頂きありがとうございます。それで、もうひとつお願いなんですが……」
ルララの居る宿で仲間の救出を報告しに来た私だったが、イベントには続きがあった。
何でも彼らがこの街に連れて来られたのだが、襲われたのは異国の地であり自分たちの故郷の集落へ帰りたくても帰れないのだと言う。
仲間を助けて貰った報酬を渡したいのだが、現在は手持ちも無いため、故郷の集落を探して貰えれば必ずそれに見合う報酬を渡すと、そういう事だった。
「仕方がないね、一度引き受けた面倒だ。最後まで付き合うよ」
あっけない終わり方だと思ったらこれは導入に過ぎなかったらしい。
こうなったらとことん楽しんでやろうじゃないか。
そうなるとツヨシ君の方も同じ様にイベントの続きがあるのか、私はそれが気になってしまった。
「師匠、報酬はどうでした? 僕は二百クレジット貰えました」
合流したツヨシ君は嬉しそうにイベントの報酬に関して報告してきた。
「あれ? 報酬を貰えたって事は続きは無かったの?」
ツヨシ君もイベントの続きがあるものと考えていた私は、その予想が外れた事に対して疑問を投げ掛ける。
「続きですか? ありますよ、僕に話しかけて来た女の子が居たじゃないですか。彼女ミランダちゃんっていうんですけど、その子だけこの街の子じゃないらしいんですよ。それでどこから来たのか聞いてみたんですが、全く分からないらしくて、その親探しを頼まれちゃいました」
「そのミランダちゃんはどこに居るんだい?」
「親が見付かるまではこの街の孤児院でお世話になるそうです」
私はミロール族の集落探し、そしてツヨシ君はミランダちゃんの親探しか。
目的地は違うものの趣旨としては同様のイベントって事か。
「師匠の方はどうだったんです?」
「私の方はミローリ族の集落を探して、そこに戻る事ができたら報酬を支払うってさ。それとこのイベント、何か引っ掛かってるって言ってたじゃん。その理由が分かったよ」
「ん、何なんです?」
「ミルルのヤツ、手持ちが無いって言ってるクセに宿屋に部屋を取れている矛盾さ。きっと話の都合を優先して宿屋に居るようにしたんだろうけど、お金の問題をまるっきり無視してるのが引っかかりを感じていた原因だったって事だね。そして、話の都合を優先してるって事はこの世界が作られたゲーム世界である事の確実性が増したって事でもあるなって……」
ゲーム世界に入り込む事は技術的に可能ではあっても倫理的に許されているものではない。
これは少しゲームが好きな人であれば誰でもが知り得る情報ではあるが、その倫理的に許されていない技術を使ってこのゲーム世界に私達を閉じ込めた人物なり組織が確実に存在しているという事だ。
今のところその可能性が高いのはエデンを販売している会社なのだが、そんな大企業が明るみに出れば大バッシングを受けるのが確実な事を行うだろうか?
その答えを出すにはまだまだ判断材料が足りないのは事実だが、ここは確実に誰かの手によって作られたゲーム世界であり、そのゲーム世界に一般では許されていない技術で少なくとも私とツヨシ君は閉じ込められているという事実は確定されたと言っても良い。
「とりあえず集落を探すのもミランダちゃんの親探しも急を要する訳じゃない感じだし、ランクアップに向けて楽しんでやろうじゃないか」
不安要素をツヨシ君に明かす必要なんて無い。
ここは楽しい世界なんだと、その上で自分たちが何者なのかを取り戻せば良い。
こうして突然はじまったイベントは一旦の落ち着きをみせたのだった。
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