第17話


静寂の戻ったホールには、現状を理解できず、ただ呆然と佇む人々がいた。


「……ナコ。」


寂しそうに美香たちの消えた場所を眺めていた菜子に、アルベルトが声をかけてきた。


「これで、良かったんです。」


「……そうか。」


いつの間にか元の侍女の姿に戻っていた菜子に、アルベルトが静かに頷く。

アルベルトがそっと菜子の肩に手を乗せたとき、悲鳴にも近い声が聞えてきた。


「せ、聖女様が……ゆ、勇者様も……こ、これはどういうこと!?」


聞き覚えのある女の声に、菜子たちは振り返る。

そこには、青褪め取り乱したローズがいた。

そのすぐ側にも、先程の光景を見ていた国王たちもいた。


「ア、アルベルト殿下、こ、これはどういうことですか!?」


ローズは信じられない、といった表情をしながらアルベルトに縋るように訊ねる。


「先程の光景を見ていただろう、ナコがミカ嬢とレオンハルトを元の世界に送ってやったのだ。」


アルベルトは淡々とした声で事実を教えてやる。


「な、ばかな!聖女ならず、勇者まで消してしまっては、魔王はどうするのじゃ!!」


アルベルトの説明に、声を張り上げたのは国王だった。

国王は真っ青になりながら、息子を見つめる。

そんな国王の姿に、息子であるアルベルトは嘆息すると、菜子を見ながらこう言ってきた。


「ミカ嬢は聖女ではなかった、ここにいるナコこそが聖女です、貴方方も見ていたでしょう?」


何の問題があるんですか?と視線で訴えれば、国王は、ぐぅっと呻きながら口を閉ざした。


「そ、それならば、そこにいるナコ……せ、聖女様は、私たちの為に戦ってくれるということですか!」


ついこの前まで、美香を聖女だと祀り上げていたローズは、調子の良いことに、今度は菜子へ鞍替えしてきたようだ。

期待に満ちた瞳で、こちらを見ている。

その図々しい変わり身に、アルベルトはゲンナリとしながら菜子を見る。

菜子はアルベルトの視線に気づき、にっこりと微笑み返すとローズへと視線を移した。

そして同じように笑顔を作ると「ええ」と、頷いてみせたのだった。

その返事にローズは喜ぶ。

傍にいた国王たちも安心したように、ほっとした表情をしていた。

しかし――。


「ですが、私が力を貸すのは、アルベルト様にだけです。」


次の瞬間菜子が発した言葉に、ローズや国王達が目を見開いた。


「なっ、そ、それはどういう。」


「言葉通りですよ、私はアルベルト様の専属侍女・・・・・・・・・・・なので。」


驚いた声で言うローズの言葉を、最後まで言わせず、菜子はにっこりと微笑みながら、はっきりと言ってやった。

その言葉の意味を理解した者達が、ぴしりと固まる。

どれもこれも、みんな真っ青な顔をしている。

その反応に菜子は満足そうに頷くと、アルベルトへと向き直る。


「そういうわけですから、アルベルト様行きましょうか。」


「ああ、そうだな。」


アルベルトは、にやりと笑うと菜子の手を取り歩き出した。


「ま、待て!どこへ行くのじゃ?」


我に返った国王が、慌てて二人を止めた。

二人は揃って振り返ると、面白そうに笑いながら答えたのだった。


「「もちろん、魔王討伐へ!!」。」


そして二人は誰の見送りも待たずに手を繋ぎ、魔王のもとへ旅立ったのだった。











【おまけ】


魔王討伐の旅の途中。


「あ、あの……アルベルト様。」


「ん、なんだナコ?アルベルトじゃなくて、アルと呼べって何度も言ってるだろう。」


「う……す、すみません、じゃなくて!」


「なんだ、どうした改まって?」


「あのですね、勢いで出てきちゃいましたけど、私と一緒で良かったんですか?……その、私……美人じゃないですし……。」


「は?何言ってるんだナコ?」


「だ、だってやっぱり聖女は美人な方がいい」


「俺はナコでいい。」


「え?」


「ああ違うな、ナコいいんだ。」


「・・・・・・。」


「これからもずっと一緒だよな?返事は?ナコ。」


「は、はい!!」


「よくできました♪」


おわり。

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ヒロインと一緒に間違えて召喚されたみたいです! 麻竹 @matiku_ukitam

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