第13話
「僭越ながら。」
全員の視線が、魔道師長ローズへと注がれる。
その視線に臆する事無く、ローズは声を張り上げた。
「アルベルト殿下のお気持ちは、大変嬉しゅうございます、ただ……。」
「ただ、なんだ?」
アルベルトが眉間に皺を寄せて聞き返す。
その様子をちらりと見ながら、ローズは恭しく頭を下げながら、こう言ってきた。
「ただ、そこの娘を連れて行くことに、同意は出来ません。」
そういってローズが睨むように見た相手に、視線が集中した。
その先には、自分以外の人達に射抜かれるように見られ、一歩後退る菜子の姿があった。
「ナコが?この娘が同行するのが、何故ダメなのだ?」
アルベルトは不機嫌を隠す事無く、ローズに詰め寄った。
そんなアルベルトの気迫に怯む事無く、ローズが返答する。
「それは、この娘が何の力も持たないからでございます。」
「それは……。」
その言葉にアルベルトは言葉に詰まった。
本来なら、聖女の力を持っているのは菜子だ。
しかし菜子から、その力の事は伏せて旅に同行させて欲しいと頼まれていた。
菜子の気持ちを優先させたい、と思っているアルベルトにとって、ローズへの返答はどうしたものかと内心で頭を抱えていると、すぐ近くから助け舟が出された。
「あ、あの……。」
声のした方に視線をやると、聖女様がいた。
今現在聖女様と呼ばれている美香は、恐る恐る一歩前に出てくると、両手を胸の前にあわせて縋るような目で見上げてきた。
その視線は十分愛らしく庇護欲を掻き立てる仕草で、鼻息も荒く抗議していたローズも、思わず顔が緩んでしまうほどだった。
「せ、聖女様、どうしたのですか?」
美香の愛らしい顔に、頬を染めながら聞き返す。
先程とは随分態度が違うようだ。
そんなローズの変わり身に、菜子は半目になりながら美香の言葉を待った。
「あ、あのご迷惑でなければ、私も菜子さんが一緒がいいです。」
思わぬところからの援護射撃に、ローズだけでなく菜子やアルベルトも驚いた。
どういう風の吹き回しだろうと首を捻っていたら、簡潔な答えが美香の口から出てきた。
「私、私できれば菜子さんが居てくれた方が嬉しいです、やっぱり女の子一人じゃ心細いですし……。」
そう言って、もじもじしながら縋るように菜子を見つめてくる。
――こうやって見ると、ほんと天使みたいだなぁ……。
大きな瞳に涙を一杯溜めて、ローズや国王達に懇願している美香を見ながら、そんな事を思う。
そんな愛らしい美少女の姿を見せ付けられた周りは、頬を染めながら「う、うむ聖女様がそこまで言うのなら」と、あっさり承諾されたのだった。
美少女恐るべし!
菜子はあっという間に話が纏まってしまった様子を見ながら、美香の手腕に心から賞賛を送るのだった。
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