第12話


「いいのか?」


謁見の間からの帰り道、アルベルトが訊ねてきた。

菜子は黙って頷く。


「だって、見捨てられなかったんです。」


そう言って笑う菜子に、アルベルトは「しょうがないな」と苦笑する。

結局のところ、美香の聖女の力は国王の前できちんと見せられた。

もちろん菜子によって、である。

国王の目の前で、それはそれは美しい甲冑を作り出した美香は、国王陛下に大層褒めちぎられていた。

それを見ていたローズは、満足そうに頷き。

美香も己の役目を無事終えて、ほっとしていた。

しかし、この事で美香に変な自信がついてしまったらしく、誉めそやす国王陛下に「魔王討伐はお任せください」と豪語していたのだった。


「正直あれで良かったのかと疑問に思うのだが……。」


アルベルトの独り言のような問いかけに、菜子も返答に困った。

自分自身も、あれが正しいことだったとは断言できない。


――でも、ああする他なかった。


あの場で美香に力がないとバレてしまったら、きっと只では済まされなかっただろう。

あの場には国王もいた、この国の権力者の前で聖女ではなかったとわかったら、どんな罰が与えられるか想像できなかった。

なんてったって王様を謀ったのだ、その罪が軽いわけがない、最悪美香は投獄されていたかもしれないのだ。

暗い牢屋に閉じ込められる美香の姿を想像してしまい、ぶるりと震えた。


「でも、あそこではああする事以外思いつかなくて……。」


菜子はそう言いつつ肩を竦める。

面倒事に首を突っ込んだ事は重々承知だ。

だから菜子は覚悟を決めた。


――こうなったらちゃんと美香さんをサポートしなきゃ!


菜子はアルベルトの顔を見上げると、己の決意を伝えるべく口を開くのだった。






「本当に、よろしいのですか?」


数日後、アルベルトは国王のいる謁見の間に、また訪れていた。

国王が鎮座する玉座の手前で、魔道師長であるローズが困惑も露に、アルベルトに聞き返していた。


「ああ、俺も勇者殿に同行しようと思う。俺も騎士の端くれだ、国を救いたいと思う気持ちは、そこの勇者殿と同じです。父上よろしいですね?」


そう言ってアルベルトが父を見上げると、国王は渋面を張り付かせて、こちらを見返してきた。


「本当に、良いのじゃな?」


息子の決意を確認するように、聞き返してくる。


「はい。」


アルベルトは、ゆっくりと頷きながら返答した。

その姿に国王は浅く息を吐くと、豪華な玉座に深く背を預ける。


「そなたの願いを聞き届けよう。」


「陛下!!」


国王の言葉に異議を唱えたのは、ローズと国王の隣にいた王妃だった。


「陛下、アルベルトはこの国の第二王位継承者なのですよ、もしもの事があったらどうするのです?」


妃の非難の言葉に、国王は冷や汗を流した。


「い、いや、王位継承者なら第一王子のクリストファーがおるではないか。」


「そ、それはそうですが……。」


夫である国王の言葉に王妃は口籠る。

王妃にとっては、どちらも可愛い自分の息子達だ、長男が王位を継ぐから大丈夫だとは、とてもではないが思えないらしい。

そんな母の想いに、アルベルトは嬉しく思いながら言葉を紡いだ。


「母上、兄上がいる限りこの国は安泰です。ですが、その国自体が無くなてしまっては意味がありません。どうか兄の為、この国の為に魔王討伐の同行をお許しください。」


アルベルトはそう言って、深々と頭を垂れた。

実の息子にそこまで懇願されてしまっては、王妃もこれ以上何も言えなくなってしまった。

しかし王妃が頷きかけたところで、ローズが待ったをかけてきた。


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