第9話
アルベルト付きの侍女になってから、早三日。
菜子は相変わらず、目の前の現状に困惑していた。
どこの世界に、侍女と一緒にご飯を食べる王子様がいるんだろうか?と。
菜子の目の前には、アルベルトが座っていた。
今は朝食の時間で、重厚な長テーブルの上には豪華な食事が乗っている。
もちろん菜子の目の前にも、アルベルトと同じものが並べられていた。
菜子と食事を共にすると言い出した、アルベルトの我儘に付き合っての事なのだが、最初は食事係の侍女や従僕達も付き添っていた。
しかし食事係達の冷たい視線に、耐えられなくなった菜子が「一緒に食事は無理です」と、アルベルトに直談判したところ、何故か食事係の方が席を外されることになった。
これにはさすがに菜子も、それはおかしいとアルベルトに訴えたのだが、聞いては貰えなかった。
なので、今は二人きりだ。
朝の挨拶を済ませた菜子は、目の前に用意された朝食に悪戦苦闘していた。
この国の食事スタイルは、ナイフとフォークだ。
自分のいた世界と同じ食器が出てきたことに、ほっとしたのも束の間。
王子と侍女が食事を共にすることの疑問に加えて、菜子は今テーブルマナーの壁に直面していた。
銀食器を手に持ち、目の前の皿の中のものをどうやって手をつけたら良いか悩んでいると、アルベルトが席を立って近付いてきた。
そして、そっと菜子の手を取ると「こうやるんだ」と優しく囁きながら、テーブルマナーを教え始めた。
ぱくり、とアルベルトにされるがまま、フォークに刺した肉を口に入れられ菜子は赤面してしまった。
――なんだかよくわからないけど、心臓がばくばくする。
至近距離のアルベルトからは、良い匂いはするわ。
添えられた手が思ったよりも大きくて温かくて、なぜか自分の手から汗がでてくるわ。
耳元で囁かれる声に、背筋がぞくぞくするわ。
もう、わけがわからなかった。
食事どころじゃなくなってしまい、数度上がった体温に頭がくらくらしてくる。
これは天然か?天然なのか?わざとじゃないのか?
と菜子はぐるぐるする頭でアルベルトを見上げると、屈託のない笑顔が降ってきた。
――はい、天然でした!
ばくばくとうるさい心臓に、酸欠気味の菜子はそろそろ窒息しそうだと身の危険を感じた頃、アルベルトが絶妙なタイミングで離れた。
優雅な足取りで席に戻ったアルベルトは「わかったかい?」と、屈託の無い笑顔で聞いてくる。
菜子はなんとか頷くと、アルベルトは嬉しそうに菜子に話しかけながら食事を再開したのだった。
――いやもう、これ毎日やるんですか?
心臓が持たない、と菜子が内心で嘆くのだがこれはもう決定事項らしかった。
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