第6話


そんな菜子の反応を面白そうに眺めながら、アルベルトは口を開いた。


「なあナコ、お前ここに居て辛くないか?」


「へ?」


突然の質問に菜子は素っ頓狂な声を上げる。


「ちゃんとメシは食ってるか?仕事は辛くないか?」


「え、ええと仕事は前より楽になりました。ご飯はちゃんと食べてます。」


そういった瞬間、菜子のお腹の辺りから、ぐぅ~と音が聞こえてきた。


――忘れてた、今日寝坊して朝食抜きだったんだっけ。


菜子は咄嗟にお腹を腕で隠すと「きょ、今日はその、寝坊してしまって」と言い訳をした。

アルベルトは真っ赤な顔をして蹲る菜子を見て「ぶはっ」と吹き出した。

腹を抱えて笑うアルベルトに、そんなに笑わなくてもいいんじゃないかと、恨めしそうな視線を送っていると、それに気づいたアルベルトが「すまんすまん。」と謝ってきた。

ひとしきり笑って、目尻に浮かんだ涙を拭きながら、アルベルトは懐を漁ると、中から小さな皮袋を取り出してきた。


「今は、こんなもんしかないけど食うか?」


そう言って差し出してきたのは、騎士の非常食らしい。

アルベルトは皮袋から干し肉を取り出すと、菜子の口に放り込む。

無理やり咥えさせられ素直に噛んでいると、柔らかくなったところから肉の味が染み出してきた。

意外と美味いそれに、驚いた顔で「おいしい」と感想を伝えると、アルベルトは嬉しそうに笑った。


「今度は、もうちょっと美味いもの持って来てやるよ。」


アルベルトはそう言うと立ち上がり、特に約束もせず颯爽と帰っていってしまった。

後に残された菜子は、久しぶりに感じた他人の優しさに、胸の中がほっこりするような気持ちになって頬を緩めるのだった。





菜子がここへ来てから、ようやくこの世界の事がわかってきた。

ここは剣と魔法が存在する世界で、菜子たちが世話になっているここは、バジリスク帝国という軍事国家だそうだ。

そして、この世界は今まさに魔王の脅威に脅かされていた。

そこで預言者に魔王を倒す方法を予言させると『異世界から聖女を召喚すれば魔王を倒せる』と出たらしく、さっそくローズ率いる魔法使い達を使って召喚魔法を施し、呼び出されたのが自分達だったというわけだった。

そして召喚の場所に居た、レオンハルトという金髪碧眼のイケメンは勇者で、アルベルトという赤髪赤眼のイケメンが、この国の第二王子様らしい。

それを知った菜子は、ひっそりと王子と勇者の容姿が逆じゃね?とツッコミを入れたのだった。

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