第4話
次の日から菜子は大忙しだった。
炊事に洗濯に掃除。
朝は日が昇らぬうちから叩き起こされ、日が沈んでも仕事は終わらなかった。
毎日毎日、汗にまみれながら必死に働いた。
だって、そうするしかなかったからだ。
美香は連れて行かれたまま、どこに居るのかもわからず、しかも元居た場所へ帰る方法もわからないのだ。
菜子は不安で押しつぶされそうな心を、必死で押さえながら与えられた仕事を黙々とこなした。
菜子が召喚されてから一週間程経った頃、仕事から疲れて自分の部屋へ帰る途中に声をかけられた。
疲れた顔で振り返ると美香がいた。
美香は嬉しそうに菜子に走り寄る。
「良かった静科さん、無事だったのね。」
美香は、疲れてぼろぼろの菜子を見ながら嬉しそうに言ってきた。
菜子は、ぼんやりとする頭で頷く
美香を見ると、こちらへ来たときの制服とは違う服を着ていることに気づいた。
白を基調とした布地に、金糸の刺繍が施されたドレスを身に纏っている。
どこぞのお姫様のようなその出で立ちに、菜子は「河井さんは何着ても似合うね。」と褒めた。
その言葉に美香は嬉しそうに微笑む。
「私、今聖女としてこのお城に居なきゃいけなくて……しかも魔王を倒す準備ができたら旅に出なきゃいけないらしいの。」
美香は菜子の手を取り、己の身の上話をし始めた。
菜子は「大変そうだね。」と返すのがやっとで、立っているのも辛そうだ。
そんな菜子にはお構い無しに、美香は自分の話をし続ける。
毎日豪華な食事で王様達と一緒に、ご飯を食べるのは大変だとか、どこへ行っても侍女達が居て窮屈だとか、ここへ来てからの不満を菜子へとぶつけた。
菜子は、そろそろ眠気が限界の頭で、今何時だろうとぼんやりと考える。
ふと美香は、どうやってここへ来たのか気になった。
「あの、河井さんはどうやってここへ来たの?」
菜子が訊ねると、美香はぱちくりと大きな瞳を瞬いた。
先程の美香の話では、侍女の居住区から大分離れた場所で暮らしているはずだ、ここまでは結構な距離がある。
しかも彼女は、今や聖女様として崇め奉られている存在なので、共も連れず、どうやってこんな所まで辿り着いたのか気になった。
すると美香は舌を出して可愛らしく笑うと
「えへ、内緒で来ちゃった。私付きの侍女に菜子さんが、ここだって聞いて心配で来てみたの。」
その言葉に菜子は驚いた。
素直に嬉しい、でも怒られはしないかと美香を心配していると、背後から冷たい声が聞えてきた。
「貴様、何をしている!」
驚いて振り返ると、レオンハルトが怒ったような顔で立っていた。
「聖女様、こんな所においでになっていたのですか。さ、ここは貴女様の来るような所ではありません、部屋へ帰りましょう。」
レオンハルトは、菜子を睨みつけながら美香の側へ向かうと、菜子から隠すように目の前に立った。
「貴様、聖女様に何をしようとしていた?」
「ちょっと!静科さんは違うわ、私が会いに来たのよ!」
菜子に向かって凄むレオンハルトに、美香が必死で止める。
「ですが……。」
「静科さんは私のクラスメートよ!手荒な事はしないで!」
美香の言葉に、レオンハルトは困ったように眉根を下げると、ちらりと菜子を睨むように見た後、美香の肩を抱いて連れて行ってしまった。
翌日、菜子は本邸から別館の掃除婦へと移動させられたのだった。
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