第3話
国王の前に押し出された美香は、引き攣る頬でなんとか笑顔を取り繕おうとしている
そしてローズに説明されるまま、胸の前で両手を組んで、う~んと唸り始めた。
「ええ~と……剣、そうだ勇者の剣を出してみようかな。」
ぽつりと搾り出すように出た美香の声に、周りの人々から感嘆の声が上がる。
固唾を呑み見守る中、美香の唸り声だけがよく響いた。
――勇者の剣か~どんなのだろう?
美香の背中を眺めながらファンタジー好きの菜子は、ちょっとだけわくわくしていた。
本当に美香が聖女なら、勇者の剣が出るかもしれないのだ。
先程の召喚されるという不思議な体験をしたばかりの菜子は、美香は本当に聖女かもしれないと思い始めていた。
そして菜子が勇者の剣をあれこれ想像していると、美香の背後からカシャンと音が聞えてきた。
見ると、なんと本当に勇者の剣が出現していたのだった。
その事実に回りはどよめく。
「ほ、本当に出た!」
当人である美香が一番驚いているようだ。
その様子を満足そうに見守っていたローズは、床に落ちていた勇者の剣を拾い上げると国王へと差し出した。
国王はそれを受け取ると、菜子達の後ろに居た金髪の青年を呼んだ。
「勇者レオンハルトよ。」
「はっ。」
レオンハルトと呼ばれた金髪の青年は、菜子と美香の横を通って王の前に跪いた。
「そなたに、この剣を授けよう。」
「ありがたき幸せにございます。」
レオンハルトは深々と頭を垂れると、王から剣を受け取って高く掲げる。
すると周りから歓声が沸き起こった。
「聖女様から頂いたこの剣で、必ずや魔王を倒してご覧にいれましょう。」
レオンハルトは美香に向かってそう言うと、蕩けるような笑顔を向けた。
その笑顔に美香も頬を染め、うっとりと魅入ってしまっている。
そんな二人を満足そうに見ていた国王は、一際大きな声で宣言した。
「我が王国に聖女が現れた今、魔王恐るるに足らず!そこにいる勇者と共に必ずや魔王を打ち破ってくれようぞ!」
国王の言葉に、更に歓声は大きくなるばかり。
周りに居た騎士や従者らしき人たちは、感極まって涙ぐむ人たちもいた。
暫く余韻に浸っていた王は、美香へと向き直ると
「積もる話はまた後でするとしよう。召喚の儀式で疲れておいでの聖女殿を部屋へ案内いたせ。」
と言ってきた。
ローズは王の言葉に頷くと「貴女はここにいなさい。」と菜子に言いつけ、今度こそ美香を菜子から引き剥がし国王達と共に広間からどこかへ行ってしまった。
ぽつんと残される菜子。
暫くすると、お仕着せを来た女性が一人、近付いてきた。
その女性に連れられて着いた先は、侍女達の住居だった。
案内してきた女生は侍女長らしく、同じ服を渡され部屋に押し込めらる。
「貴女は明日から、雑用係として働いてもらいます。」
侍女長はそう言うと、部屋からさっさと出て行ってしまった。
部屋の中に一人取り残された菜子は、呆然と閉まった扉を見ていた。
そして一言。
「やっぱりヒロインは美形じゃないとダメよね。」
と呟いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます