第2話
扉の中は、長い廊下になっていた。
等間隔で立っている柱には、美しいレリーフが彫られている。
長い廊下を歩いているうちに、平常心を取り戻した菜子は、周りの景色を見てうっとりしていた。
壁にかけられた絵画。
アーチ状に作られた、高い天井の長い廊下。
顔が映るくらいに磨かれた、大理石の床。
大好きな物語に出てくるような建物の構造に、菜子は嬉しさで興奮していた
きょろきょろと辺りを見ていると、美香が小声で話しかけてきた。
「ね、ねえ、私達学校の床が崩れて、そこに落ちてここへ来ちゃったんだよね?」
美香の言葉に、ここへ来る前の事を思い出す。
そういえば、ここへ落ちてくる前確かに学校にいたはずだ。
しかも、突然床が抜けて穴が空いたかと思ったら吸い込まれて、気が付いたらここへ来ていたのだ。
菜子は思い出したことを頭で整理しながら、美香へ「そうみたい」と頷いた。
すると美香は「やっぱり、夢じゃないのね」と言って肩を落としてしまった。
慌てた菜子は思わず「大丈夫だよ私も付いているから」と言って励ます。
その言葉に美香は、少しだけ微笑んでくれたのだった。
暫く歩くと、開けた場所に出た。
広場の奥には数人の人だかりがある。
菜子と美香はローズに促されて、その人だかりの前に連れて行かれた。
人だかりの真ん中には、煌びやかなドレスを纏った壮年の女性と、王冠を被った重そうなマントを肩に羽織った壮年の男性がいた。
そして、その二人を守るように、鎧を身に着けた屈強そうな男の人達が数人、背後に立っていた。
「この者が、召喚された聖女なのか?」
王冠を被った男性が、ローズに向かって声をかける。
ローズは跪き恭しく頭を垂れながら「左様でございます国王陛下」と言っていた。
その言葉に菜子は驚く。
国王陛下といえば、遠い国にいる偉い人だ。
テレビでしか見た事がない外国の王様を思い出しながら、菜子は目の前の国王陛下と呼ばれた男性をまじまじと見た。
見た目は確かに、テレビで見た王様みたいな格好をしていた。
しかし、どちらかというと菜子がよく読むファンタジー小説に出てくる王様の方が似ていると思った。
そして、ふと気づく。
ここにいる人たちの姿が、中世ヨーロッパなどの衣装に似ていることに。
「ねえ、なんかここに居る人たちみんな映画に出てくるような人達みたいじゃない?」
菜子の耳元に美香が、こっそり耳打ちしてきた。
――確かに、そうとも言える。
目の前の男女は、さしずめ王様とお妃様といったところか。
周りの男の人達も騎士の様な格好をしていて、しかも腰には剣なんかも差している。
だんだん自分達が置かれている状況を把握してきた菜子は内心焦った。
――こ、これってもしかして……。
「国王陛下様、私の見たところそこにいる美しい娘こそが聖女様でございます。」
突然、国王の横に居た白い衣装を着た老人が言ってきた。
口を覆う長い白い髭を、手で扱きながら嬉しそうに言う老人に、国王は「神官長殿が、そう言うのなら間違いはないな。」と嬉しそうに頷いた。
そして国王は、今度は私を見て眉を寄せた。
「して、先程から聖女殿の隣にいるこの者は?」
「は、はは!……こ、この者は聖女様のお付きの従者にございます。」
先程まで跪いていたローズが慌てながら言った言葉に、菜子は「へ?」と間抜けな声を上げた。
その瞬間ローズに、ぎろりと睨まれる。
その視線に蛇に睨まれた蛙の様になってしまった菜子は何も言えなくなり、だらだらと冷や汗を流しながら黙るしかなかった。
それを真に受けた王は頷くと
「そうか、では早速、聖女の力を見せてもらおうではないか。」
と言ってきた。
にわかに色めき立つ周囲に、美香と菜子は怯える。
国王の言葉に、ローズは立ち上がると美香の方を向いた。
「聖女様、貴女様のお力を国王陛下にお見せくださいませ。」
「え?力って、私何もわからないんですけど。」
ローズの言葉に美香はもちろん焦る。
そんな美香にローズは優しく微笑むと「大丈夫ですよ」と言ってきた。
「聖女様である貴女ならきっとできます。預言では聖女様には祈りひとつで物体を作り出す力があるとか、さあお力をお見せくださいませ!」
ローズは美香の目の前で大仰な身振り手振りで説明すると、にこにこと無理難題を吹っかけてきた。
隣で聞いていた菜子も青褪める。
――いきなり聖女の力を見せろって言ったって、河井さんは困るんじゃ?
と、美香を見ると案の定、真っ青になって固まっていた。
その様子に痺れを切らせたローズは、美香の腕を掴むと、ぐいっと前へ押し出してきた。
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