第2話 小さな硬貨を持ち立ち止まる
「帽子がないと暑いねー良い天気でよかったぁー」と呑気な娘に気を配る母は、私の横顔をみては、モナリザのような...聖母マリアのような...表情を向けていた。
私より25年も早く産まれ、多くの経験の中から誰よりも大切な事をいつも示唆してくれている。母を見る度時々、神に思う。
「貴様が実際に居るなら殺している。」
哀しみの連鎖は、私の性格のひょうきんさからほとんど受け継いではいないが、このようにフリーマーケット等の経験など母からすれば未知なる状況ではあった。
「売れるといいなぁーっ笑」
私は、誰が何を選びどんな風にディスプレイからなくなっていくのかが楽しみだった。
運良くかどのスペースを利用できたので、
見晴らしも良く周囲に気を遣うことも少なくて、少しずつ集まる人々...
お客さんに、ぼーっと目を配らせていた。
「お姉さん、これいくらですか?」
メガネをかけた真面目そうな高校生?
大学生?の年齢に相応した男の子が、キャラクターのキーチェーンを恥ずかしそうに手にしていた。
「あ!50円です!」
男の子はポケットから50円玉を出し、丁寧に確認してから、私の手の平に乗せ、
「ありがとうございます」とはにかんだ笑顔を見せた。
私は満面の笑みで硬貨を受け取り、手をふった。
その男の子は、3回程は私のブース前でキャラクターキーチェーンに足を止め眺めていた子である。
私自身もそれを大事にしていたので、
綺麗な状態だったのではあるが、内心では新しい物ではなくていいのかなぁと不安な気持ちではあった。
“小さな硬貨を持ち立ち止まる”
この時間にあの子は、どんなことを考え3周もして、声を掛けてくれたのだろうか...。
私が今の年齢ならば、聞いていたかもしれないが、聞かなくてよかった。
忘れてはいけない何か。
その何かをあの子は、硬貨より大きな何かを持ち、止めた足を次へと運んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます