「センパイ、隣で」


「…………」


「優良さん」


「…………」


「優良さん?」


「…………ハグッ!?」


ヒュンッ、とまるで空から落ちるような感覚を覚えた。しかし目を覚ますとここは図書室だ。


…そうだった。センパイと一緒に放課後の実力テスト勉強をしてたんだった…。


周りには私たちと同じ考えの生徒がチラホラといてそれぞれが机に向かっている。寝ていたのは私ぐらいなものだった。しかししょうがないではないか。実力テスト勉強をしていて昨日の睡眠時間が少なかったのだから(しかしそれで今寝てしまっては本末転倒である)。


「すっ、すみません。寝ちゃってました…」


「大丈夫ですか?」


「はい。…すみません…」


「いえ。気づけなかった僕も悪かったので。すみません」


センパイはそう言うとパタン、と解いていた参考書をとじた。高校で買わされる参考書ではないからきっとセンパイが自分で選んで買ったものだろう。私はというともちろん高校で買わされる参考書で勉強をしている。新品のように綺麗だがそこはスルーしてほしい。


「にしてもたくさん人がいますね…。実力テストってそんなに大切でしたか? 今日先生に聞いたところによると追試はないらしいんですけど…」


「そうですね、確かに追試はないです。…ですが点数が悪いと成績に直接ダメージがくるんですよ」


「え?」


「つまりは内申に響くという事です」


「ヒェ…ッ。ただでさえ悪い内申が…!」


「優良さんは真面目そうではないですからね」


そりゃそうだ。私はこの高校が好きで入ったわけでない。“センパイ”が好きで入ったのだから。そんな校風? だの、校則? だの気にしていられない。次第に先生も怒らなくなってしまったし(見放されたという事である)。


「あはは〜。“真面目そうではない”? なんの事ですかね〜?」


結城 優良。真面目ではないらしい。


「そっ、それは置いといて…! センパイ、ここ分からないです」


無駄話(センパイといるのだから無駄話ではないが)はそこそこにして私はさっきまで(寝るまで)解いていた問題を指差す。英語の長文問題だ。長文問題を見るとどうしても眠くなってしまう特殊能力をやめたい。


「長文問題は区切りをつけるわかりやすいですよ。それからなんとなく読んで雰囲気を掴んでください。全文読んで理解しようとすると時間がかかってしまいますので」


「なるほど…」


「他は接続詞などに注意して読んでください」


「センパイ…」


「なんでしょうか」


「テスト当日、隣で解説してくれませんか?」


「それだとカンニングになりますね…」



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