「真斗、やめとくね」


「まじやばい…、分からない…」


「テスト?」


「そう…! 実力テスト! やばい、まじで分からない…」


バイト先の控え室にて私は実力テストの範囲が書かれたプリントと睨めっこしていた。実力テストの範囲が広すぎて頭が回りそうである。読んでいく限りほとんど“全部”と言われている気がする。


「実力テストかぁ。俺のところ今週だった気が…」


「…の、割には余裕じゃない? 焦らないの?」


「ん〜? 別に焦ってもテスト先延ばしにならないし」


「…………」


そういう考えもあるのね、と思いながら私は控え室に置いてあるお菓子を頬張る真斗を見る。


そういえばコイツにもバレンタインのお菓子はあげた方がいいのだろうか、という疑問がフッと出て湧いた。センパイという彼氏がいながら私に好意を向けてくるコイツにあげてしまったら余計に勘違いをしそうである。


だがしかし。他の従業員には渡して真斗には渡さないなんてあっていいのだろうか。…仕方がない。ここはたくさんチョコを量産して真斗が食べているお菓子のように“ご自由にどうぞ”システムにしよう。


なんて目の前の実力テストよりも一か月前の心配をする私。このままでは実力テストで赤点は回避できないだろう。


どうしたものか、とグルグルと思考を巡らせる。


「優良ってバカ?」


「失礼な言い方だな」


「ごめん。聞き方が悪かった。点数低い?」


「…国語はまぁまぁ。暗記系はちょっと…、数学英語は聞かないで」


「要するに国語しかまともな点数が取れない、と」


「今…、心にキタわ…」


グッ、と心臓を抑える素振りをする。チラリ、と真斗を見てみるとケラケラと笑っていた。どうやら真斗に人の心はないらしい。だがしかし、そんな事だろうと思っていた。心が優しい人は“〇〇ってバカ? ”なんて聞き方はしないだろう。


「じゃー分からないところは彼氏に聞くの?」


「あー…、いや。今年受験生のセンパイの邪魔はできないよ。自力で頑張る」


「……なら、さ」


チラッチラッ、とこちらとお菓子の箱を交互に見ている真斗が口を開く。なんだなんだ、気持ち悪い。ハッキリと言ってほしいものである。


「俺が教えようか?」


「いやそれは大丈夫」


「即答! しかも早口だったし! そんなに嫌?!」


「嫌っていうか…、借りを作りたくないだけなんだよね…」


なんか、こう…。真斗に借りを作ったら面倒な事になりそうじゃん? と本当に言ったらそれこそ面倒な事になりそうなので口を噤む。


「え〜、なんでよ。俺、教えられるよ? 一応進学校だし」


「あはは。…気持ちだけ受け取っておくよ」


「本音は?」


「仮を作ると面倒くさそう」


「なんで!!!」



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