「えみ、嘘だと言って」


「どれがいいかな…」


「何が」


「いや、これ」


私はそう言って目の前でコンビニのおにぎり(鮭)を食べていたえみにさっきまで見ていた雑誌を広げてみせる。その雑誌の一面には色とりどりのスイーツ─チョコ─が載っていた。


“手作りチョコ これで彼もあなたに夢中♡”の謳い文句で掲載されているチョコたちは確かに彼女に貰ったらさらに夢中になってしまうであろうチョコたちだった。


市販のチョコを溶かして型に入れるだけのものから生チョコといった定番。少しステップアップしてガトーショコラやマカロン、チョコケーキ、ムース・オ・ショコラなど凝ったものまである。


「どれがいいかな?」


「え、作るの? まじか。そんなに器用だったか?」


「サラッと酷い事言ったね。チョコ作りくらいだいだよ!」


そうえみに反抗しながらペラリ、と一ページ捲る。そこには“上級者さん向け”と書かれていてミルフィーユ・ショコラやガトーショコラシュークリーム、オランジェットの作り方が載っていた。


「お。オランジェットだって。オレンジにチョコかけるだけなのになんで上級者向けなんだろ。これなしようかな…」


なんて作り方も大して見ずにそういうとえみは冷ややかな目を向けてきた。


「あんたまだ1月半ばなのにもう来月の話? 気が早すぎない?」


「いーの! 早い事に越した事はないでしょ?」


えみの方ではなく雑誌の方をじっ、と見つめながら私は答える。オランジェット…。簡単そうなのになぜ上級者向けなのだろうか…。


「あとオランジェットは何日もかけて作るんだからね。知らないでしょ」


「え! 何それ! ほんと?!」


ばっ、と雑誌からえみの方に視線をあげる。丁度おにぎりを食べ終わっていたようでくしゃくしゃとやや丁寧にゴミを折り込んでいた。


「本当。出来るわけないから大人しく型に流し込むだけのやつにしな」


「えぇ〜! いいと思ったのに…」


そう言いながら私は再度雑誌に目を向ける。よくよく読んでみると確かに。専門用語が多くてよくわからなくなってくる。これは本当にえみの言った通り型に流し込むだけのチョコにした方がいいかもしれない。


「まぁ…あと1ヶ月くらいあるんだからゆっくり考えれば?」


「そ、そうだね…!」


「あ、そんな事より…」


「ん?」


えみが何か思い出したかのようにそう言った。


「冬休み後の実力テスト、一週間後なの知ってる?」


「ゑ?」


「知らなかったんだ。だから余裕そうだったんだね」


呆れたようにパックのミルクティーを飲むえみ。え、待って。おいおいおい。


「嘘…」


「残念。本当です。てか予定表に書いてあるし」


「嘘だああああ!!!!」



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