「センパイ、お疲れ様です…」


「優良さん、お疲れ様です」


未だにズビズビと泣いている部長を見事にスルーしてセンパイは私に声をかける。何か描きたいけれど燃え尽き症候群なのか、何も描けずにスケッチブックに丸や三角、四角を量産していた私は勢いよく顔を上げる。


「センパイ! お疲れ様です!」


「えーいちくーん。話を聞いておくれよ〜」


「優良さん、ちょっとすみません。…清水部長はまず鼻をかんでください。これ、ティッシュです」


さすがセンパイ。私に断りを入れてから部長にバッグから取り出したティッシュを差し出す。しかもフワッフワッしているティッシュだ。駅前で貰ったティッシュを持ち歩いている私なんかよりもよっぽど女子力がある。


「ずび〜〜〜〜〜ッ!」


「かめましたか?」


「うん」


「どうしたんですか。そんないい歳の高校生が泣いていて…」


「それがね! 優良ちゃんが引退はまだか? って言うんだよ!」


「はい。いつなんですか?」


「栄一くん、もう一枚ティッシュちょーだい…」


グスンッ、と泣きながら部長はセンパイにティッシュをせびる。センパイは「もうこれ、差し上げます」と言ってフワッフワッのティッシュを部長にあげる。なんて優しいのだろうか。


そういう部長は涙腺がぶっ壊れているのか「優しい…」なんて鼻声で言い、惜しみもなくティッシュを使う。


「俺が引退したら寂しくないの?」


「全然」


「全くですね」


「2人とも辛辣!」


だって部長は引退しても部室に顔を出しそうだし、なんなら引退してからの方が顔を出す頻度が高くなりそうだ。


「俺だってね、受験勉強してて大変なのに部室に顔を出してるんだからねッ!」


「この時期まで部活に顔を出しているという事は清水部長は最後まで引退しないつもりですか?」


「そゆこと! 息抜きは大切だからね!」


「まぁ…だろうとは思いましたけど…」


センパイはそう言うと部長の隣に腰を下ろす。


となると私が副部長になってセンパイの隣に腰かけるのはまだまだ先の話のようだ(すっかり自分が副部長になるのが当たり前と思っている件についてはここでは深く触れないでおく)。くっそう。


まぁ部長といると楽しいし、まだいるのならそれはそれでいいと思える。


「今日の活動内容ですが…」


「あー、俺パス!」


「まだ何も言ってません」


「だってデッサンとか面倒だし! モデルとか死んでもヤダ! だから何もしなーい!」


「子供じゃないんですから。それに明日は…」


「あーあー! 何も聞きたくない! 何も聞きたくない! 俺忙しいわ! 帰る!!」


部長はそう言うと急いで荷物をまとめでセンパイが止めるまもなく部室を後にした。


………前言撤回。やっぱり早めに引退してもらいたい。



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