「部長、素敵な絵でしたよ」
「お疲れ様でーす!」
片手にはスクールバッグ。もう片手には今日貰った賞状。私は元気よく美術室の扉を開けた。
美術室の中にはいつも通りの部員たちが忙しなく自分の絵を完成させていた。いつもはいないはずの部長も何故か今回だけは私よりも早く席に座っていた。
「優良ちゃんお疲れ〜」
「部長早いですね」
「まーね! 少しぐらい部長らしい事しなきゃって思って」
いつも思っていてください。とは口に出さず私は笑顔で「そうなんですか」と言う。すると部長は少し真面目な表情をして「優良ちゃん」と私の名前を呼んだ。
「なんですか?」
「………優良ちゃんの絵、良かったよ」
これは私が大賞を取れなかったから言ったとか、気休めとか、お世辞とか、そんなのではないとすぐに分かった。第一、部長はそんな取り繕えないだろうし、そんな事は思わないだろう。
これは本音である。部長の本音。
部長は自分の絵に愛着が持てない。だからなのか、自分の絵より他人の絵の方が優れているとそう思うのだ。
本当は誰よりも絵が上手くて、魅力的なのに。
「部長の絵の方が素敵でしたよ」
「俺の絵は、ほら。あれだから…。全然」
“あれ”とは何なんだろうか。
時間をかけていないから?
私の方が時間をかけていたから?
愛着が持てないから?
「部長」
「ん?」
「部長の絵、素敵でしたよ。時間とか関係ないじゃないですか。部長の吸い込まれるような絵、素敵でした。雪化粧の富士山。まるで写真のようでしたよ」
部長の描いた雪化粧の富士山は本当に写真のようで。私がまるでそこにいるかのように錯覚してしまった。それほどまでに部長の絵は素敵で、見る人を魅了してしまっていた。
「だから」
私は部長の瞳をしっかりと見ながら続けた。
「だから、そんな事言わないでください」
「優良ちゃん…。ありがとう。三年最後の思い出が出来たよ」
ニコッ、と笑う部長はなんだか穏やかな表情をしていた。良かった、部長が元気出て。そう思いながらも口に出したら調子に乗るため、言わないでおく。
「あっ。そうそう! ところで部長はいつ引退するんですか?」
「あれ?! そこは“寂しいんで引退しないでください”じゃないの!?」
「まさか。いつ引退ですか? いっつもいっつもセンパイに仕事押し付けてるんですからいつ引退しても同じですよね?」
「泣く! 俺泣くよ!?」
「いい歳の高校生が泣かないでください」
私はそう言うといつもの位置に荷物を置き、センパイが来るのを待つ。
さてと。今日は何をしようかな。
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