「センパイ、ありがとうございます!」
「部長、おめでとうございます」
他の先生に聞こえないように小声で私は部長に言葉をかける。部長はというといつものヘラヘラとした笑顔でお礼を言ってくるかと思ったが、何も言ってこない。聞こえていないのか? 、と思いながら再度「部長」、と声をかけると部長は小さくこう言った。
「ありがとう」
言葉こそは明るかったが部長のその表情は少し暗かった。一体何が部長をそこまで暗くしたのだろうか。否、答えは分かっている。
私が大賞じゃなかったからだ。
普通は逆だろう。自分が大賞じゃなかったから暗く落ち込んでしまう。しかし部長は違う。以前も言っていたが、部長は自分の絵に価値を見い出せない。
数分で描いた絵に価値なんてないと思っているのだ。本当は部長が思っている何十倍だって価値があるのに。
だから、部長は価値のない自分の絵が大賞になって、私たちの絵が大賞にならなかったのを残念に思っているのだろう。
それでも私は部長と勝負をしたかった。だから私のやる気を出すために部長が「描こうか?」と言ってくれた時は嬉しかった。
「銅賞。2年1組、長瀬栄一」
「はい」
センパイの声に私はハッ、とした。部長はいつも通りの表情に戻っていた。一瞬だった。一瞬だけ、部長が悲しそうな顔をしたのをきっとみんなは知らない。私だけ、私だけが知っている。
「お二人共、おめでとうございます」
表彰状をもらったセンパイが小声で私たちに声をかける。
「栄一くんもおめでと〜」
「おめでとうございます」
これ以上話すと学級担任にバレて怒られてしまうため後はアイコンタクトで会話を終わらせ、ステージから降りて私たちは元いたステージ近くの場所に戻る。
それから長い長い始業式も終わり、解散。といっても学年順に帰るため私は軽く体を伸ばして2人に声をかける。
「お疲れ様でした! 今日の部活でまた会いましょう!」
「お疲れ様でした」
「お疲れ〜! またね」
そんな2人に短くお辞儀をしてから私はクラスの所へと帰る。遠くからでも分かるえみの場所。そっとえみの背後に忍び寄り、勢いよく飛びつく。
「わぁ!」
「……………」
「あれ? 無反応?」
「いや、気づいてたし」
「まじかぁ」
「入賞おめでと。金賞なんて凄いじゃん」
えみはいつも毒舌のくせにこういう時だけちゃんと褒めてくれる。そういう所が私は好きだ。
「ありがとう。結局部長には勝てなかったけどね」
「でも金賞だよ。良かったじゃん」
「まぁね」
なんて会話をしながら私たちは教室へと向かう。
そうだ。部長との勝負には負けてしまったが、金賞を取れたのだ。
この悔しさをバネにまた頑張ろう。
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