「真斗、ごめんね」
「優良、俺もう結構ダメージ食らってる…」
「でもね」
私は真斗の事をしっかりと視界に入れたまま真斗の話を無視して続ける。
「そんな真斗だから私は今日、ここに呼んだんだよ」
「……………」
「真斗の言う通り、私は真斗と付き合ったりはできない。それは真斗よりもセンパイの方が大好きだから」
「それは知ってる」
「でも真斗は大切だから。大切な友人だよ」
「でもあいつよりは大切じゃないんだろ」
真斗はやや不貞腐れたようにそう言うとゆっくりと立ち上がった。その右手には私のあげたペットボトルがある。
「……水、ご馳走様」
「うん」
「優良…。俺と付き合って」
ゆっくりとこちらを見てそう言う真斗。言葉こそは今までと同じだが、雰囲気があまりにも今までとは違くて私は驚いた。
今までの子供のような雰囲気とは違く、大人のような落ち着いた雰囲気を醸し出していた。また少し吹っ切れたのだろうか。
「ごめん」
「知ってた」
真斗は少し困ったように笑うとペットボトルの水を飲む。
「優良が買ってくれた水だから美味しい」
「それはないと思うけど…」
「………。…優良」
「何?」
「話聞いてくれてありがとう」
真斗はそう言うとニコッ、と笑った。その表情からはもう不安要因は感じられない。もう大丈夫なのだろう。
「うん、どういたしまして」
「俺、優良にとってもっと大切な存在になれるように頑張る」
「いや、ならなくていいけど」
「もし優良にとって大切な存在になったら付き合えるかもだからな!」
「天地がひっくり返っても無理だよ」
「ひっどいなぁ」
真斗はさっきまで静かに泣いていた人とは思えないくらい笑っていた。きっと空元気というものだろう。そんな真斗を見ていて少し心が痛い。
───もし…
───私が真斗と同じ高校に進んでいたら
───センパイと出会っていなかったら
私は真斗と付き合っていたのだろうか。いや、しかしそれはただの同情だ。同情で付き合って、情で結婚したとしてもそれはただの鎖だ。
一生、本当の意味で幸せにはなれない。
私も。真斗も。
だからこれでいいのだ。この結末で、この結末が一番のハッピーエンド。
「帰ろうか。俺送るよ」
「え、大丈夫だよ」
「冬なんだから日が落ちるの早いだろ? それに俺が送りたいの」
真斗はそう言うと私と一緒に公園を出る。
これで一件落着…なのだろうか。いや、一件落着ではないだろう。真斗のお母さんが真斗を心から愛さないと、愛し始めないとこれは終わらない。これはただの現実逃避だ。
しかし私ができるのはここまで。真斗の話を聞いてあげられるだけだ。
「真斗、ごめんね」
そう小さく呟く。
「ん? 何か言った?」
「言ってないよ。ほら、早く帰ろ」
真斗を心から救ってあげられない罪悪感を抱えながら私は家へと帰った。
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