「真斗、迷惑だよ」
「真斗、大丈夫?」
そう言って真斗に水を差し出す。何かあった時のためにお財布も持ってきていてよかった、と一安心する。真斗は未だ揺れる瞳のまま私が持ってきたペットボトルを視界に入れる。
「飲める?」
「ん」
真斗は短くそう言うと小さく首を傾げた。そんな真斗にペットボトルを差し出すと「ありがとう」とお礼を言われる。
真斗はそのままペットボトルを開けて一口水を飲む。そんな真斗と少し距離を開けて私はベンチに座る。
「真斗さ…。話したくないなら話さなくてもいいんだけど…」
「話す」
「ズカズカと足を踏み込んで今更だけど…いいの?」
「話、聞いてほしいし。それに優良ならいいよ」
長瀬くんの言っていた通りだ。
「ありがとう」
「………母さんも、同じ…なんだ」
「同じ?」
「急に、態度変わるの、俺と同じ」
どうやら自覚はあったようだ。黙って話を聞いていると真斗は視線を地面に向けてポツリポツリと話し続けた。
「母さんに恋人が出来たらしくて、最初は優しかった。その時に父さんの事で色々あって。最初は“ごめんね”とか、今までの暴言とかも謝ってくれたんだ」
「うん」
「でも…恋人と喧嘩したりすると不安定になって、俺に暴言を吐いたり、泣いたり、喚いたり…。まるで俺みたいだよな。……最近だと帰ってこないし……多分、恋人のところだから心配ないけど………」
そっか。真斗は怖かったんだ。
──家族さえも自分から離れるのではないか、と
暴言は吐いているけれどずっと一緒にいた家族がたった一人の恋人の存在で離れてしまうのではないか。真斗はそれを心配していたのだろう。言葉にしなくてもわかる。
くしゃり、と自分自身の前髪を掴んで苦しみや悲しみに耐えている真斗。
自分も暴言や不安定な行動など、同じような振る舞いをしてきたのだからしょうがない。因果応報だ、と言われたらそれまでだ。
その通りなのだから。
でもこれは真斗の育ってきた環境のせいだから。
本来の真斗は違うはずだから。
私は──
「真斗」
くしゃり、と前髪を掴んでいる真斗の手にそっと触れてその手を離れさせた。
「前髪。崩れるよ」
「セットしてない」
「そっか」
パッ、と前髪から離れた手を私は離す。
「ごめん」
「平気だよ」
「俺、迷惑だよな」
「うん、迷惑」
私がそうはっきりと言うと真斗はビックリしたようにこちらを見てきた。いや、寧ろ迷惑じゃないと思っていたのか。……いや、迷惑だったらここまで足を踏み入れていないか。そう考えると本当は迷惑じゃないのかもしれない。
「優良…、そこは“迷惑じゃないよ”って言うところじゃ……」
「迷惑だよ。ずっと告白してくるし、私の周りうろちょろしてるし、センパイとバチバチだし…」
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