「真斗、大丈夫だから」


「おはようございます〜」


真斗に肩を掴まれてどうしようかと思っていると入口から店長が入ってきた。丁度シフトが終わる時間。


「わっ、私…! 外のゴミ掃除してくるから!」


私は半ば無理やりそう言い、真斗の手を振り払って掃除道具を片手にキッチンを出る。


あのまま時間が過ぎていたら真斗は何を言おうとしたのだろうか。そんな事、知る由もないが、真斗が不安定になっていた。最近では全くと言っていいくらい大丈夫だったのにも関わらずだ。


きっと、真斗の中で何かが起きているんだ…。


真斗がまた不安定になる程だ。このままではバイトにも支障が出てしまうだろう。


どうしよう…。


そんな事を思いながらゴミ拾い用トングでタバコの吸殻やコンビニの袋などを拾い、ゴミ袋に入れていく。


私たちが簡単に手放さないようなものを真斗は手放している。親の愛だとか、温もりだとかを真斗は感じていない。だからあんなに愛に執着しているし、固執している。


真斗の不安定さは愛してほしいが為の行動だからよくない、とも言いきれない。だけどそれでこちらに負担がかかるのは明白だ。


「………どうしよ」


髪をクシャッ、と掴む。


真斗が今までの不安定さから抜け出せていたのは真斗が吹っ切れていたからだ。それなのにまた不安定になってきているという事は…。


「…………また、何かがあったのかな…」


何かがあった、なんて曖昧な表現をしているが、何があったのかなんて本人以外分からない。もし本人に聞こうならばきっと深く傷つけてしまう可能性だってあるだろう。


「とりあえず…真斗から距離を──」


いやダメだ。真斗が距離を置いたら置いただけ真斗はこちらへ依存してくる。確実にそばにいてほしいから真斗側から依存する。そんなの分かりきっている事だ。


かといってこちらから近づいても真斗の要望に答えられなければ同じ事。


───どっちの身にしろ私に逃げ道はないのだ


不安定から抜け出せた真斗を知っているからこそ、今の真斗は放っておけない。放っておいてはいけない。


さっきはあんな風に拒否をしてしまったけれど、今度同じ事をしたらどうなるか。そんなの分かりきっている。余計に依存させてしまうだけだ。


真斗のためにも依存を抜け出させないといけない。しかし依存は抜け出せないから依存なわけで、そんな簡単に依存から抜け出せるわけがない。


「……真斗…」


センパイに相談しようにも今受験で忙しいセンパイに頼るのは申し訳ない。真斗の事を知っていて、私の考えにズバズバと意見を言ってくれる人。


そんな相手は一人しかいない。



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