そして不死鳥は死す

七四六明

そして不死鳥は死す

「なぁ、今この日本でさ、リ〇ァイ兵長的ポジションの人って誰だろうな」


 某月某日。

 同期がそんな事を言い出した。

 随分と昔に流行った漫画の話だ。一応は知っているが、よく知らないので何とも返答し難く、返し辛い。


「さぁ」

「さぁ、って……もう少し語り合う気はないの? 同じ学校の同期同士で見張り番なんだからさ。暇潰しに語り合おうぜ」

「暇潰し、ねぇ……潰すほどの暇があるとは、俺には思えないがな」

「は? 何をカッコつけて――」


 警報が鳴る。

 監視していた水平線の先が光ったかと思えば、太陽のような光を放つ何かが、巨翼を広げて飛び上がった。


 先程まで饒舌だった同期の口がと開いたまま動かなくなっている間に報告を済ませ、腰の左右に備えていた猟銃のような機械に指を掛ける。


「先に行く。おまえは合流し次第、ついて来い」


 そう言い残し、銃撃を推進力にして飛び立つ背中に「もしかして、おまえがリ〇ァイ?」なんて意味不明言語を受けながら、孤島より本土へと飛行する物体へと飛んだ。


「こちら、端島はしま監視塔。ウミネコと思しき鳥の感染、及び変化を確認。現在、本土に向けて飛行中。これを討伐するため、応援を要請します。どうぞ」

『こちら本部。要請を受諾した。付近の中隊を向かわせる。それまで足止めを頼む。どうぞ』

「了解。これより交戦を開始します」

『ご武運を』


 右翼から左翼まで、五メートル弱。

 巨体に形なき炎を纏い、不死鳥を思わせる姿には、ウミネコの面影などまるでない。

 名前の由来となったらしい猫のような鳴き声も、悪魔フェニクスの由来に連なって、聞くに堪えない気持ちの悪い声に変わっている。

 人語に似た言語を発しているが、気持ち悪過ぎて何を言っているのかわからない。


「不死鳥型か。相変わらず、気色の悪い……!」


 聞くに堪えない声とは裏腹に、美しき巨翼を広げてウミネコは鳴く。

 火の粉と共に燃える羽を散らし、襲い来る怪鳥を前に、青年――日野ひの武人たけとは飛行するため下に向けていた銃口を向けた。


「誰がリ〇ァイだ」


 眉間に一発撃ちこんだが、体を覆う炎に鉄の弾など溶かされ、意味がない。

 鳥の癖して鋭利な牙を並べた大口を躱し、そのまま下に潜り込んで交錯の最中に首から腹に掛けて撃ち続けるが、致命傷には届かない。

 せいぜいが怪鳥に敵意を示す程度。だがお陰で、怪鳥の意識が本土ではなく、完全にこちらを向いた。


「来い」


 銃撃を推進力に、怪鳥の飛行速度と競い合う。

 不死鳥型の怪鳥は、進化直後こそ直接的攻撃手段しか持たないが、いずれ羽を弾丸の如く降らせたり、炎弾を吐き出したりと遠距離攻撃をして来る。

 そうなると厄介極まりないので、速攻で勝負を着ける。


 平行移動から急上昇。

 太陽を目晦ましに使い、止まった瞬間に落下しながら背に回る。


 翼の付け根に足を引っ掛け、照準を合わせる。

 銃口を炎に突き付けてのゼロ距離射撃によって、怪鳥は悲鳴を上げる。

 これでも致命傷には届かないが、自身の熱によって溶けるまで残る弾丸が、怪鳥の脳内を痛みで満たす事だろう。


 火の粉を吐く怪鳥が鳴く。

 暴れる様に飛んで振り払い、旋回。嘴の先に炎を蓄え、自らを矢と化して射貫かんと突進して来た。


 日野は銃身を俄前で交差。盾の代わりにして受け、流す。

 燃える嘴の上を転げた日野は、仰天するように丸く見開いた両目に見られながら、その眉間に銃口を突き付け、撃鉄を起こした。


「荷電粒子砲発射まで、四、三、二、一……発射ファイア


 解き放たれる光線が、不死鳥の眉間を貫いて、尾の先から海にまで届く。

 海を穿った一撃によって銃身は溶解。が、怪鳥の体から炎が消えて、断末魔を上げた巨体が落ちる。


 飛行するための銃を失って自由落下する日野の体は、横から真っ直ぐに飛んで来た影に捕まり、巨体が落ちて上げた水飛沫の中を通過した。


「大丈夫か!? 日野隊員!」

「はい。お陰様で助かりました」

「はっはっはっ。だが応援の必要はなかったな。実質、回収部隊だけで済んでしまった。遅れてすまなかったな」

「いえ、応援感謝致します」


 海上保安庁とも連携し、回収した怪鳥を運搬。

 日野の成果と言う事で、端島警備部隊の手柄として贈答される事となった。

 つまり――宴である。


 焼き鳥。蒸し鳥。唐揚げ。怪鳥チキン南蛮。怪鳥チキンライス――その他、怪鳥を使った料理が振舞われる。

 出来る限り滅菌。毒としての効力をほとんど失った状態の肉を喰らう。

 そうして抗体を作り上げるのが、今の仕事だ。


「やっぱおまえ、最強なんじゃね?」

「いいから黙って喰え。次はおまえが仕留めろ」

「えぇ。手伝ってくれねぇのかよぉ。ぶぅぶぅ」


 うるさい。

 同期かつ同級生ながら、うるさいのは苦手だ。


「日野……焼き鳥、食べる?」

「……あぁ」

「お。何だよ彼女来てるじゃぁん。本当、陰キャなのにモテるよなぁ。さっすが最強!」

「良いから、黙って喰え」


 余計うるさくなったので場所を変える。


 彼女、と言われたが女性は確かに同級生ながらそういう関係ではない――と思っている。

 周囲は早くくっ付けと思っているそうだが、今後どうなるかはわからない。

 ではくっ付きたくはないのかと問われると、否定はしない。むしろ肯定よりだったりするのだが、それは本人含めてまだ秘密だ。


「日野……ぼんじり」

「ん」

「もも」

「ん」

「ネギま」

「ん」


 よく俺の好みを知っているな、などと思いながら、渡されたそれらを頬張る。

 隣に座った彼女は串から外し、箸で摘まんで食べ始めた。


「焼き鳥以外、食べないの?」

「早急な用件があった時、すぐ動ける方がいい」

「でも、日野の銃、今ないよ……? 運んで来ないと」

「……そう、だな。じゃあ、何か他に食べるか」

「私、唐揚げ」

「ん」


 これからどうなるかなんて、わからない。

 だがいつか、戦いも抗体も何も気にせず、好きな時間に好きな相手と、好きな物を食べられる時間が来る事を祈る。


 もしそんな日が来たら、自分はもしかしたら、彼女に何か言う事が出来るかもしれないから。

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