第1話 夏目、就任

俺は今、何故か広島県呉市にある地下研究所「WUAO 世界未知ウイルス対策機構」にて待機していた。

最初に派遣されたときは日本は敵をはき違えているのではないかと思っていた。が、最近になってようやく国の意図を理解できたと思う。

おそらくここは国が秘密裏に置いた軍の研究施設だ。明らかにウイルスに関係ない銃や見たことない形の爆弾のようなものがここに転がっている。

持ち上げながらしばらく観察していると後ろから誰かが早足で向かってくる気配を感じた。

慌てて持っていたものを元あった場所に置く。

置き終えたのと同時に後ろから「夏目一等陸曹! 今お時間よろしいでしょうか?」と声をかけられた。


「ん?あぁ、後藤陸士長か。なんだ?」


「はい。斎藤一等陸佐がお呼びです。大至急とのことで。」


「あぁ。わかったすぐに向かう。ありがとう」


後藤陸士長は「では。」と一言いうと、踵を返してもと来た道をもどっていった。

後藤陸士長は人懐っこい性格の持ち主だ。だが、人懐っこすぎるがゆえにパシリにされることが多々あった。


(人はいいんだけどな……彼には断るということを覚えてもらわないとな……)


ひとまず俺は後藤陸士長に言われた通り、斎藤一等陸佐のもとへと足を運んだ。


────────────


俺は一つの部屋の前であしを止める。

三回ノックし、部屋の中に入る。


部屋に入るとドアに向かい合う形で色黒で筋肉質の男がずっしりと座っていた。


「夏目。そこに座れ。」


そう言って斎藤一等陸佐は手前のソファーを指す。

体つきがよく、その上冷酷な性格と聞く。その見た目と性格から裏では密かに「自衛隊の鬼人」と呼ばれていた。


「失礼します」


一言行って俺は指されたソファーに腰を降ろす。

斎藤一等陸佐も俺が座ったのを確認すると、俺の向かいに腰を降ろした。


「さて、夏目。本題の前に少し話をしよう。俺が奴らが最初に現れた時に、アメリカに義勇軍として出動したのは知っているか?」


「ええ。もちろん。」


約2年前。アメリカに奴らが飛来したときの話だ。斎藤一等陸佐を含む4つの部隊がアメリカに派遣された。

当時、日本の自衛隊は後方支援という形で派遣された。

だが、奴らの侵攻が思ったよりも早く、自衛隊も前線に出らざるを得ない状態になってしまった。

自衛隊も一応89式自動小銃を持っていたが、そんなもの通じるわけもなく、あっけなく4つの部隊はすべて壊滅した。

その時の戦場がたまたま海岸線だったため、数少ない生き残り達は漁師の船をかっさらって命からがら逃げきった。


これが義勇軍派遣の話の全貌だ。

この話はレポートで見れるようになっているため、ほぼ全員がこの話を知っているだろう。


今更何の話を……あれは斎藤さんにとってもつらい話だろうというのに……


「あの時俺たちは数人生き残ったとレポートには書いてあっただろ?あれは半分本当で半分嘘でできている。あの派遣で生き残っているのは俺だけだ。他は全員死んだ。」


……は?全員死んだ?ありえない。レポートを見た限り、そんなことはどこにも書かれていなかったはずだ。

考えられることは二つ。

一つは斎藤さんがあまりのショックで脳の記憶が勝手に改ざんされた。

もう一つはそもそもレポート自体に嘘の記述があったか。

斎藤さんの性格からして前者はありえないだろう。

ならば後者で質問してみるか……


「ではなぜ嘘がレポートに書かれたのですか?」


「恐らく、第二次世界大戦中の日本軍と同じだろう。あまり都合の悪いことを書きたくなかったんだろう。怖気づいて軍から逃げ出されても困るだろうしな。」


斎藤一等陸佐はうつむきながら語る。


「すみません。一つよろしいですか?」


「なんだ?」


「この話をなぜ俺にしたのですか?あんまりこういうのは言わないほうがいいんじゃないかなと思いまして……」


「あぁ、まだ言ってなかったな。これを見てくれ」


斎藤一等陸佐は一冊のレポートを渡してくる。

一通り目を通すとそれには人類の希望が書かれてあった。



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レポート:未確認生命体の弱点について。



先日、我々はロシアの海上で死んだであろう未確認生命体の死体を3体回収に成功。


基地に持ち帰り、そのうちの1体を解剖をした。



その結果、わかったことがいくつかある。



一つは、彼らの臓器が私たち人間の臓器と類似していたことである。


彼らの臓器には人間が持っている、胃、腸、心臓、肺、肝臓などほぼ一致していた。性器などはなく、排泄物の処理の仕方については未だ不明。



二つ目は、人間で言う喉に部分になんらかの臓器があることが判明。


魂を保管する臓器だと、我々は推測している。


これが本当に魂を保管するものであるとするならば、日本軍もだいぶ戦闘がしやすくなる。



三つ目は、皮膚について。


皮膚は硬く、普通のメスでは斬るのに時間がかかった。


そんな中、一つ大きな発見があった。夏目一等陸曹のが所持している刀を拝借し、試してみたところ。スルスルと切れていったのだ。


後の実験で分かったことだが、夏目一等陸曹の刀の刃の粒子は特別なものであることが発覚。


奇跡的に未確認生命体の皮膚との相性が良かったのだ。



以上3点が今回わかったことである。


喉を狙い、攻撃ができればおそらくだが未確認生命体は生命活動を停止するだろう。



今後、残り2体の解剖も進めていく予定である。





                    呉地下研究施設  鳥宮 海



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「これは……」


誰だよ俺の愛刀を勝手にとっていったの。あとで必ず締めてやる。

斎藤一等陸佐は俺の不満そうな顔を見て咳払いをし、話を切り出した。


「本題に入ろう。夏目、お前は射撃の腕がいいと聞く。そこでお前を含む80名で新しい部隊を結成する。これはメンバー表だ。」


そう言って、レポートとは別に一枚のかみを差し出す。

目を通してみると、そこには名前と射撃の成績が載っていた。

一番上には


≪隊長≫ 夏目 空我  点数 498/500


と書かれていた。


「お前には隊長に任命したい。やってくれるか?」


なるほど。それでさっき訳のわからん話をしたのか。

自分たちのことが、生きた記録が改ざんされてしまうかもしれないが覚悟はあるか、ということなのだろう。

どうせ生きるか死ぬかしかない現状で後世のことを考えていてもしょうがない。


「わかりました。引き受けさせていただきます。」


「ありがとう」


そう言うと斎藤一等陸佐は俺の手を握る。

斎藤一等陸佐の手には感謝と喜びが込められているような気がした。

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第一次対地球外生命体殲滅作戦 不死裂@秦乖 @husisaki

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