第3話

いよいよ最後にとっておいたぼんじりだ。

私が一番好きなやつ。


先輩からお礼を言われ、かつ、ネギマの一片を分けていただけるというまさかの展開に、緊張と感動のあまり、先ほどは食べかけの砂肝の味がよく分からなくなってしまったので、このぼんじりだけは絶対に外せない。


なにがなんでも堪能してやる。

だって一本300円だよ。

バイトの時給のほぼ三分の一だよ。


私は軽く目を閉じ、ぼんじりに全ての意識を集中した。

呼吸は普通だったけどね。


よし、いける。


カっと目を見開いたその時、隣から熱視線を感じた。


横目で先輩を見てみる。

先輩は笑いをかみ殺したような顔でこちらを見ていた。


「えっ。もしかして私の顔に何かついていますか?」


不思議に思ってそう尋ねると、

先輩は今度こそ、あはは、と大声で笑いながら

「だって、純ちゃん、親の仇のような顔で焼き鳥を見てるから」

と、お腹を抱えながら言った。


私はまた真っ赤になったけれど、

「先輩を励ます」という、今世紀最大のミッションを達成できたので大満足だった。


よかった。先輩、こんなに楽しそう。


私は串をつかむと、少し冷たくなったぼんじりを口に入れ、ゆっくりと噛みしめた。


とっても優しくて、とっても暖かい味がした。


小春日和のベンチに、その名に恥じぬ暖かい風が吹いていた。


                                 【了】



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