異世界から出戻って焼き鳥を食べてる

浅葱

異世界から出戻って焼き鳥を食べてる~準備万端異世界トリップ~

 いろいろ苦労はしたけど、今思えばホントご都合主義の異世界トリップだったと思う。

 失恋したと思って山に登ったら異世界転移して、なんやかやあって異世界で好きな子と再会した。んで、失恋してなかったと知って、またなんやかんやあって両想いになって、チート能力でほぼ無双した。

 元の世界に戻れるまでに二百年ぐらいかかるって異世界の神様に言われて、必死に能力を上げて長生きした。(能力上げたら長生きできるとかもチートだ)

 で、どーにかこーにかして戻ってきた時間は、俺たちがあの山からいなくなってから約二か月後。姿形も高校生のまんまで、


「うわ、本当に帰ってこれた……」


 って呟いたら両親に「おかえり」って言われた。これもまたなんとも都合のいい話で、俺が戻ってきた場所は俺の家のリビングだったんだ。ってことは一緒に戻ってきたはずの彼女は自分の家に戻ったんだろうと思う。

 で、


「異世界は楽しかったか?」


 とか親父にフツーに聞かれたから、知ってたのかよ! と延髄切りした。(注:よい子は真似しないように)

 一暴れして落ち着いてから母さんに話を聞いたところ、うちの両親も、俺が好きな子の両親もその昔異世界に召喚されたことがあるらしい。そして今回もその世界の神がこっちの世界に勇者を探しに来たから、なんやかんやして俺と彼女を向こうの世界に行かせることにしたんだとか。


「てっめえ俺たちがどんだけ苦労したと思ってんだー!」


 チート能力はそのまま残っていたので、親父をアルゼンチンバックブリーカーの刑に処した。え? 親父? 親父もチート能力残ってるらしいから容赦なしに決まってんだろ。


「いろいろ便利なアイテムつけてやっただろーが!」

「そんなことでチャラになるか! 彼女がたいへんだったんだぞ!」


 再会するまでになんやかんやあったのだ。

 そんなわけでカナディアンバックブリーカーもしてやった。違いがよくわからない。

 そんでもって、二日後。

 俺たちは親父たちのおごりで今BBQをしている。


「焼き鳥もあるぞ~」


 焼き鳥と言われて、異世界の鳥のうまさを思い出した。でかいし凶悪だしで普通は狩れる鳥じゃなかったらしいが、俺たちはさくさく倒してもりもり食っていた。チート能力万歳である。


「クイドリ、おいしかったよね~」


 彼女がにこにこしながら言う。とにかく狩りまくって食べたことを思い出し、俺は同意した。


「それもこれも俺が持たせた水筒のおかげだろーが!」


 親父が偉そうに仁王立ちして言う。


「ああ……まぁな。でもなんで水筒から調味料が出るようにしたんだよ?」

「その方が面白いじゃないか」

「てっめえっ! 水飲もうとしたら焼肉のタレが出てくるとかありえねえだろ!」

「あ、飲んじゃった? そりゃあご愁傷様だなぁ~」

「親父、今日がてめえの命日か、ああ?」


 剣呑な雰囲気になっているところで、彼女はさっそく焼けた焼き鳥を頬張った。


「おいしいよ~。食べよ?」


 ああうちの彼女かわいい。めちゃくちゃかわいい。200年一緒にいたけど今でも大好きだ。


「あ、ああ……」


 焼き鳥のタレってなんだろうな。鶏肉もうまいわけなんだけど、やっぱこのタレ最高だよな~。


「おじさん、あの水筒を持たせてくださってありがとうございました。おかげでいろんなものがおいしく食べられました」


 彼女が改めて親父に礼を言った。


「そうだろうそうだろう。俺たちが転移した時なんか悲惨だったぞ。塩すらも手に入れるのに難儀してなぁ……おかげで調味料を探して三千里状態だったよ。子どもにそんな苦労をさせたくなかったから、ランダムで調味料が毎日出てくるありがたーい水筒を息子に持たせたってのにうちの息子は……」

「それ以前に自分の子どもを異世界トリップさせてんじゃねえよ!」


 千尋の谷に突き落とすにも限度ってものがあんだろーが。

 しかしせっかくの焼き鳥だ。わざわざ炭まで用意して焼かれた肉を口に含めばじゅわっと肉汁が溢れた。たまらん。いくらでも食える。


「しょうがないだろう。お前たちを行かせなかったら他のなんの能力もない人たちが召喚されるところだったんだぞ? お前たちなら俺たちの血を引いてるから、どうにか生き延びれると思ったんだよ」

「うっ……」


 それを言われると弱い。結果論だってことはわかってるけど、確かに俺たちは無事この世界に戻ってくることができた。


「あなた? その前にいいかげん謝りなさいね?」


 母さんがにっこり笑みながらキレている。さすがに母さんは悪いと思ってくれたみたいだ。

 一応向こうの世界にはもう自由に行き来できるようになっているからなんの問題もない。これからも向こうにはちょくちょく顔を出して、動物たちと戯れる予定だ。

 チート能力万歳である。


「謝んなくてもいいけど、次は満漢全席が食べたいなー」


 さすがに親父の顔が引きつった。

 目下一番の問題は、200年ぶりの高校の勉強をどうしたもんかってことだ。


「高校、ついていけるかなぁ……」

「それが一番心配だよね~」


 でも今はとりあえず、彼女も一緒においしい肉に舌鼓を打つことにしたのだった。



おしまい。


この話の本編はこちら↓

「準備万端異世界トリップ~俺はイタチと引きこもる~」

https://kakuyomu.jp/works/16817330650193294491

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異世界から出戻って焼き鳥を食べてる 浅葱 @asagi

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