第4話 運命の出会い3

 あれは十年以上も前、世界の端の田舎の話。


「とうさん!!かあさん!!」


 僕が生まれた家、僕が育った家、その家からメラメラと黒煙が立ち昇る。


「まだふたりがなかにいるんだ!!」


 魔道具の作り方を教えてくれた優しい母さん。野生動物との関わり方を教えてくれた逞しい父さん。二人を残したまま家は炎に包まれた。

 あの時、近所の人が僕を押さえてくれなければきっと僕も巻き込まれていただろう。

 でも、僕は、、、



 男は病室で夢から覚めた。体には包帯が巻かれ、動くと激痛が走った。

 部屋の外からバタバタと小走りするような音が聞こえてくる。


「おはよう。」


 ふと、横から声がした。男が首だけを動かして横を向くと、紅い髪を後ろに纏めた端正な顔つきの女性が小さな動物を抱えてベッドの横に座っていた。


「良かった。無事だったんだな。」

「こっちの心配より自分の心配でしょ。」


 そう言って笑う女は体に男程では無いが身体に包帯を巻いていた。

 すると、病室の扉が開いた。若い医者と看護師が入ってくる。


「レイさん起きましたか。二日も寝たきりだったんですよ。」


「え!?」

 

 二日も寝ていたことに驚く男。看護師が言うには街の猟師が異常に気づき森に入ったところ、二人が倒れていた為、この病院に運んでくれたらしい。


「そうよ。死ぬようなケガじゃないのにずっと寝てるから。心配して損したわ。」


 笑いながら話す女。そんな彼女に看護師が、


「本当ならカリンさんもまだ寝てないといけないんですよ!せめて病院内では静かにして下さい。」


 看護師に叱られシュンとなる女。


「カリン?」

「あ、あたしの名前。カリン、覚えといて。」


 先程まで落ち込んでいた女、カリンは名前を名乗る時には既に元の調子を取り戻していた。


「さて、レイさん。」

「あの、俺の名前レイじゃなくて、レインです。レイン・マスべ。」

「カリンさんからそう聞いていたのですが。」

「え、アンタあの時レイって言ったじゃない。」


 恐らく聞き違えたのだろう。男、レインは正確な自分の名前を医者に伝えた。


「分かりました。レインさんですね。改めまして、レインさん。」


 医者がレインに二日の間に調べた検査結果を伝える。


「命に別状はありません。二日寝ていたのは恐らく疲労のためでしょう。ただ、肋骨と左腕の骨が骨折しています。自然治癒なら二か月、治癒魔法なら一週間で完治しますが、如何しますか?」


 医者はそう言ってレインに一枚の紙を渡す。そこには治療費が書かれていた。


「こ、こんなにするんですか?」


 レインは悩んだが、流石に一月は待てなかったため、治癒魔法の使用を選択した。話はそれだけだったのか、医者と看護師はレインの返事を聞くと病室を出て行った。

 人が居なくなるのを見計らって、カリンの膝の上に居た者がレインの上に飛び乗った。


「っ!!痛たたたたた!!」


 患部の上に飛び乗った為、レインは痛みに呻く。飛び乗った者は得意げに患部の上で飛び跳ねた。


「ほらほら、こっちに来なさい。もう…そういえばこの子は?狐?」


 カリンがレインの上から小動物を退かした。悪戯の罰か頬を軽く引っ張りながら、カリンはレインにそう尋ねた。


「痛てて、そいつはフーコ。俺の家族だよ。」


 フーコと呼ばれた子狐がうおんと一鳴きする。


「フーコ、悪戯しちゃ駄目よ。そうだ、ついでにアンタのこと教えてよ。命を助け合った仲なんだしさ。あと暇だし。」


 かなり突発的だったが、カリンの様子が本当に暇そうだった為、レインは自分の事を少し話し始めた。


「まあ、良いよ。…改めて、俺はレイン・マスべ。旅の行商をしている。」

「行商?何を売ってるの?」


 レインはベッド脇の台の上に乗っていた自分の荷物を指さす。カリンが袋を開けると布や木製の小物が幾つか入っている。その全てに円形の模様が刻まれていた。


「これは、、、」

「魔法道具だよ。自分で作って売ってるんだ。一応結構売れるんだぞ。」

「…ふーん。やっぱり魔法使えるんだ…。」

「そりゃそうだろ。じゃなきゃ空に吹っ飛ばすなんて出来ないだろ?」


 何かを考えながら取り出した物を袋に戻すカリン。


「次はそっちの事を教えてくれよ。俺も暇だからさ。」

「…ん?あーそうね。私はカリン。鳥人種よ。あたしは踊り子として旅してるの。飛ぶのは疲れるから専ら歩きと馬車だけどね。」

「鳥人の踊り子か。踊りなんてあまり見た事無いんだよな。」


 カリンは舞う様に腕をしならせた。その腕には畳まれた羽の跡が見える。レインは感心するように声を漏らした。


「自分の芸を見せられる場所があるのよ。アンタの道具じゃないけど、あたしの舞も結構人気なんだから。」


 ふふんとカリンは胸を張った。


「凄いな。今度見せてくれよ。」

「お金を払ってくれたらね。」


 なんだよと二人は同時に笑う。


「そういや、カリンは何であのケモノに追い掛けられていたんだ?」


 レインはふと思った事を聞いてみた。


「そう、聞いてよ!!アイツ、いきなり藪から飛び出して襲い掛かって来たのよ!飛んで逃げても追いかけてくるし、最悪よ!!」


 カリンは楽しげな様子から一転、あの時の事を思い出して苛立ってしまった。


「でも、あの炎魔法凄いじゃないか。ケモノを一撃で焼き払ってしまうなんて、まるで御伽噺みたいだな。」

「まあ…そうね…」


 カリンは怒りの表情から次は表情が曇ってしまい、元気が無くなってしまった。


(感情豊かだな、この子。)

「でも、本当に助かったよ。俺じゃあいつは討伐出来なかっただろうからな。」

「でしょ!!あたし、不意打ち以外で負けたこと無いから!!」


 そして調子に乗って大声で笑い出した。すると、カリンを呼びに来た看護師がカリンの頭を持っていたボードで叩いた。


「五月蠅いですよカリンさーん。そろそろ治療の時間ですよ。」

「痛あ!!…呼びに来たみたい。じゃあまたね。」


 そう言ってカリンはレインの居る病室から出て行った。静かになった病室。身体を動かすと痛いので、レインは治療の時間までもう一眠りする事にした。



 次の日、再びカリンはレインの病室にやってきた。


「ねえ、 あたしに魔法教えてよ。」


 病室に入ってそうそうカリンはレインに向かってそう言いだした。


「はあ?魔法教えろって、魔法使ってただろ?」

「そうだけど、、、他の魔法もどうしても知りたいの。」

「他の?悪いが、俺はこれで食ってるんだ。それを簡単に教える訳にはいかない。」

「そこを何とか!お願いします!」

「いや、だから」

「この通り!!」


 真剣な眼差しで迫り、頼み込むカリン。


(…こういうのに弱いんだよな俺。)


 そんなカリンの態度に折れたのかレインは、


「はあ、分かった分かった。教えてやる。」

「ホント!?」

「ただし、俺の治療終わりからカリンの治療までのちょっとだけだぞ。」

「ありがとうレイン!!」


 そう言ってレインにハグをする。痛がるレイン。そうしてレインはカリンに魔法について教えることになった。

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