縁日で獲った河童の話 (2)河童と人魚がいなくなった
夏休みの間、僕と姉は河童と人魚の世話に夢中になった。
僕も姉も夏休みの自由研究をどうしようか悩んでいたので、恰好のテーマが見つかって喜んだ。
僕と姉は水槽の前で、観察日記を片手に河童と人魚の様子を時間も忘れて見守っていた。
河童と人魚は、父が用意した水槽の中で一緒に泳がせていた。
河童も人魚も、淡水でも海水でも生きて行けるようだった。
エサは魚のすり身や野菜の切れ端なんかを与えた。人魚よりも河童の方が食べられるものは多いようだった。と言うより、ほんとは食べられるものでも、あえて人魚は食べ物を選り好みしているようだった。
四、五日もすると、河童も人魚も手の平くらいのサイズまで大きくなり、河童は手足がはっきりとわかるようになった。僕と姉は庭にビニールプールを広げ、そこに水を張り、河童と人魚を泳がせて遊んだ。
一週間ほど経つと、河童と人魚はさらに大きくなり、小さめの鯉くらいの大きさになった。河童は手足をうまく使って水槽の壁をよじ登れるようになってしまったので、水槽に蓋を被せ、重しを置かなければならないようになってしまった。
夏休みも終わりになると、いよいよ河童も人魚も鯉並みの大きさになり、水槽の中で泳ぐのに窮屈そうになってしまった。
「こんな狭い中で泳がせているのは可哀そうよ」母が僕らにそう言ったが、僕も姉も、河童たちを手放す気にはなれなかった。
9月1日、新学期が始まった日。
僕と姉が家に帰ると、水槽の中は空になっていた。
「お母さん! 人魚はどうしたの?!」
「河童も!」
僕と姉が母に問うと、母はこう言った。
「もう家で飼うには大き過ぎだから、水族館に渡してきました。もう観察日記もできたしいいでしょ?」
母の言葉を聞いて、僕も姉も母に詰め寄ったが、僕らの非難などどこ吹く風というように、母は取り合わなかった。
僕も姉も突然の喪失感に大泣きしてしまったが、河童も人魚も、もう帰ってくることはなかった。
僕と姉は、その日の夕食の焼き魚と煮物を、涙を流しながらお通夜のような雰囲気で食べたのだった。
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