縁日で獲った河童の話
立野 沙矢
縁日で獲った河童の話 (1)河童と人魚すくい
あれはもう何年前になるだろうか、確か小学校三、四年生の時だったと思う。
夏休みに、僕は姉と一緒に近所の神社で催されていた縁日に行った。
綿菓子や焼きそば、焼きとうもろこしやあんず飴、お面や型抜きの屋台に並んで、河童の的屋があった。
いや、正確には河童の的屋ではなく、金魚すくいの店だったはずだ。だが、金魚の入った水桶の横に同じくらいの大きさの水桶が置かれており、そこには卵くらいの大きさの河童が二十匹ほど泳いでいた。河童だけでなく、同じくらいの大きさの人魚も三十匹ほど泳いでいた。
「何で金魚と同じ桶に入れないの?」と僕は二つ上の姉に聞いてみた。
「バカね。そんなことしたら河童も人魚も、金魚を全部食べちゃうでしょ」
当たり前のことを聞くなと言う感じで姉が説明した。
「河童と人魚は食べあわないの?」と僕は再び姉に聞いた。
「そういうものなのよ」
そういうものなのか。世の中はわからないことでいっぱいだなあ、と妙に納得したことを覚えている。
僕と姉は的屋のおじさんにお金を払い、ポイを受け取って、それぞれ河童すくいと人魚すくいに挑戦した。
河童も人魚も、まだ幼体のはずなのに、金魚の倍くらい速く泳いだ。
タイミングを見計らってすくい上げようとしたが、あっと言う間に僕と姉のポイは破けてしまった。
だけど、的屋のおじさんは「サービスだ」と言って僕と姉に河童と人魚を一匹ずつくれた。ビニールに入れた河童は狭い水中で不服そうに僕を見返してきた。
家に帰り、僕と姉の手に河童と人魚を見つけると母は困ったように「うちじゃ人魚も河童も飼えませんよ」と言った。
父はビールを飲んで赤くなった頬をポリポリと掻くと「ちょっと待ってろ」と言って庭の納屋の方に出て行ってしまった。
しばらくすると父は、巨大な水槽を抱えて戻ってきた。
父が両腕を広げて何とか抱えられるほど幅があり、深さは当時の僕が足を抱えて座っても頭が少し出るか出ないかくらいあった。
「昔、釣った魚の生け簀代わりにしてたやつだ。これなら入るだろ」
父はそう言うと居間の隅にその巨大水槽を下した。
母はまだ文句を言いたげだったが、父が満足げに笑っているのを見ると、もう何も言えないようだった。
その日から、我が家に河童と人魚が同居することになったのだった。
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