第11話 薫の決意
その驚きが冷めない内に入学式になったので、剛太は少し項垂れたまま、式に参加していた。
私は少しだけ心配していた。
入学式が終わり、みんな教室に帰ってきて担任の先生からの質問を聞いて、さあ今日はもう帰るという段階になってから、隣の一組に剛太を迎えに行った。
そこで担任の先生に直談判している剛太が居た。
「先生、俺は二組にクラスを変わりますから、よろしくお願いします」
「いやいや、神力くん。入学初日にいきなり言われても無理だから……」
先生はかなり困っているようだ。それもそうだろう。特進クラスである一組から早々に抜け出そうとするなんて聞いた事がないから。
「むう! ならば校長に直談判して来ます!」
先生にそう言って教室を出ようとした剛太が私達に気がついた。
「おっ、おう…… 来てたのか」
「剛太、いきなりクラス替えろって言ったって無理だぜ」
将暉くんが剛太を
「それは、言ってみなきゃ分からないだろ!!」
少し拗ねたように言う剛太。こんな剛太は初めて見たな。私はそう思いながら剛太に声をかけた。
「剛太、今日はもう帰ろうよ。入学初日なんだし、貴広オジサンも待ってるよ」
そう、これからみんなで貴広オジサンの元に行き、高校生になった事を報告した後に、それぞれの訓練方法を決めてもらう事になっているんだ。
剛太は私の言葉に私の方を見ずに返事をした。
「ああ、分かったよ、薫」
もしかして私、嫌われちゃったかな? 剛太が私の方を見ずに返事をしたのでそう思ったけど、既に私達を置いて歩き出していた剛太を慌てて追いかけて、その思いを頭から振り払った。
女子の制服を着た私を見た貴広オジサンの第一声は、
「おお、薫か。やっと本来の制服を着る事にしたんだな」
だった。やっぱり貴広オジサンも気がついていたようだ。それはそうだよね。武術の達人であるオジサンが気が付かないなんてあり得ないもの。
しかし、剛太はそう思わなかったようで、オジサンを連れて奥の部屋に入り、長い時間を話していた。出てきたオジサンのニヤニヤ笑いが気になったけど、剛太は少しだけ落ち着いたようだ。
私の目を見て返事をしてくれたから、それが分かった。
その日は軽い稽古をそれぞれしてから、みんなでオジサンの家で料理をして、晩ごはんを食べてから帰った。将暉くんと衣里ちゃんとは途中で別れて剛太と二人切りになる。
そして、家につくまで剛太は無言だった。私は少し悲しくなったけど、それでも剛太を守るのは止めないと心に誓って、剛太にまた明日ねと声を掛けて家に入った。翌朝にはいつもの剛太に会えますようにと願って。
そして翌朝に剛太を迎えに行くと、剛太が寝ていない顔で現れた。
どうしたの? って聞いたら何でもないって返事が返ってきたけど、何でもないって顔じゃない。
「剛太、ごめんなさい」
私は原因が私だと分かっていたから素直に謝った。そしたら剛太は
「いや、薫は何も悪くないぞ。俺が勝手に悩んでるだけだから、気にするな」
と、以前の剛太に戻ったかのように返事をしてくれた。私はそこで決心した。今日の放課後に、私から告白しようと。
幼い頃から大好きだった剛太に告白して、ダメだったらダメでいいから、それでもこれまで通り心友として側に居させてと頼もうと決めた。
そう決めたんだ……
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