第9話 中学卒業までの剛太

 それからが長かった。光輝くんはしつこいぐらいにに絡んできた。


「薫、今日は俺に付き合ってくれるな」


 いつの間にか呼び捨てになってるし、当たり前のようにそんな事を言ってくる。女子はの事を男子だと思っているから、そんな光輝くんを見て潮が引くように光輝くんから離れていった。


「薫、いつになったら俺の想いに応えてくれるんだ?」


 いや、何時までたっても応える気はないよ? 何、その謎に満ちた自信は?


 剛太も将暉くんも衣里ちゃんも、何度注意しても止めない光輝くんに呆れて最近は投げやりにこう言ってくる。


「もうコレはメシ、じゃない、ムシするしかないな。薫、まあ登下校も休み時間も俺や将暉と一緒に居れば大丈夫だよ」


「薫、もう少しで卒業だからそれまでの我慢だ。剛太の言う通り無視を貫け」


「こうなったら、薫。剛太と既成事実をつくっちゃおう! 目の前でキスの一つもしてやれば、アイツも諦めるんじゃない?」


 衣里ちゃん、は大歓迎だけど、剛太は困ってるよ。ホラ、あの力強い眉毛がハの字になってるし。ハァー、もしもの真実を知ったら剛太は告白してくれるかな?

 けど、よくよく考えてみたら将暉くんって実は凄いよね。気付いてるし、ずっと黙っててくれてるし。ただ何となくだけど衣里ちゃんも気がついてるような気がする。

 に対する態度とか、多すぎるスキンシップとかが根拠なんだけど。普通は彼氏がいるんだから、他の男子に積極的にスキンシップなんてしないよね。

 あ、ほら剛太が衣里ちゃんにいらない事を言っちゃったよ。


「衣里、将暉という彼氏が居るんだから、薫にあんまりベタベタしてたら将暉が怒るぞ」


「残念でしたぁ。剛太、将暉はね、そんな小さな事で目くじらをたてたりしないの。それよりも、何? まさか、剛太は嫉妬してるのかな〜?」


 衣里ちゃん、剛太をからかい過ぎだよ。


「おう、そうだぞ。衣里。俺の一番の心友を気安くベタベタ触るんじゃない。薫をベタベタ触ってもいいのは俺だ!」


 そう言って剛太はを抱き寄せたんだ。マズイ、マズイよ、剛太。顔が真っ赤になっちゃうから。は慌てて剛太を押し離して、傷付けないように言う。


「もう、剛太は何を言ってるんだい。背も伸びて力も強くなったのに、力一杯に抱き締めるから、呼吸困難になっちゃったよ」


 の苦しい言い訳を聞いて剛太はバツが悪そうな顔をして謝ってきた。


「おう、わ、悪いな。薫」


 アレッ? そ、そこは謝らずに鍛え方が足りんとか言って突っ込んでくれないと、反応に困るんだけど。


 いつもと違う剛太に微妙な空気になった達二人を見て、衣里ちゃんが言った。


「あんたら、付き合い初めのカップルかっ!?」


「え、衣里。それは言い過ぎだよ。せめて両思いのウブ同士ぐらいにしないと……」


 いや、将暉くん。それもどうかと思うよ。は心の中でしっかり突っ込んだよ。



 そんな事があって、不思議な事に剛太は誰にも告白する事なく中学三年を終えようとしていた。

 光輝くん? アレからその道の同胞に囲まれ出して、何故かその人達に常に囲まれた上に説教をされたようだよ。聞いた話なんだけど、


「いいか、光輝。お前は間違っている。薫くんのような美少年は、俺達の世界には入って来ないんだ。薫くんは、遠くからでるだけにしておくんだ」


 とか、


「お前なら俺達の世界で薫くんを超えられる。だから、さあ、俺達と共により高みを目指そう!」


 なんて説教されたとか。それに対して光輝くんは


「や、やめろ! お前たちと一緒にするなっ! 俺はノーマルなんだーっ!!」


 って叫んでいたとかいないとか……


 嬉しい事に光輝くんは工業系の男子高校に行くから、もう会う事もないだろうけど、どうぞ新天地でお幸せにと祈っておいたよ。


 

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