第3話 小学校三・四年の剛太

 小学二年の時には誰にも告白しなかった剛太だけど、三年生になっていきなり告白したんだ。


 告白したのは同じクラスになった、塔山杏子とうやまきょうこちゃんだった。


「きょうこちゃん、結婚を前提にして俺と付き合って下さい」


 両手いっぱいの花束を捧げながらそう言う剛太を見た杏子ちゃんは、


「ゴメンナサイ! 私、剛太くんはこのみじゃないの!」


 速攻で断った。


 ガビーーーーン!

 という擬音が聞こえそうな顔で固まった剛太は、再びクラス担任になった、多香美先生にソッと花束を渡して、


「教室でも、職員室でも、先生の家にでも好きに飾って下さい……」


 そう言って教室を出て行こうとした。しかし、多香美先生に腕を掴まれて出て行くのを阻止された剛太。


「先生、俺は今から失恋の痛みを癒やしに保健室に行きます」


「なーにを言ってるかな? 剛太くん。今からもう一分もしたら一時間目が始まるから、失恋の痛みは、学校が終わってから癒やして下さい」


 容赦ない多香美先生の言葉に剛太は諦めて席についた。そして、隣に座る心友の将暉くんに愚痴を言っている。


「なあ、将暉。父ちゃんが花束を持って結婚を前提にって言えば女は落ちるって言ったのに、何で杏子ちゃんは付き合ってくれなかったのかな?」


 根が真面目な将暉くんは、ちゃんと返事をする。


「剛太、それは杏子ちゃんも言ってたじゃん。好みじゃなかったんだよ」


「そうかぁー、好みじゃなかったか…… ヨシ! 次は俺を好んでくれそうな子を探して告白するぞ!!」


 そして、剛太は三年生の間に八人の女子に告白して、全て玉砕した。


「かおるー、またフラレたよー。何がダメなんだろうなー?」


 僕は正直に言った。


「うん、剛太の視線がダメなんじゃないかな? 男子を見る時は何の感情も見せてないけど、女子に告白してる時の剛太の視線は、貴広オジサンが【水戸黄門】の【かげろうお銀】の入浴シーンを見てる時と同じ視線だからね」


 またもガビーーーーン! が聞こえそうな顔で固まる剛太。


「か、かおる、ソレって本当か? 本当に俺はあんな嫌らしい視線で女子に告白してるのか?」


「僕が剛太に嘘を吐く訳ないでしょ。本当だよ」


 僕の返事に剛太は真剣な顔になり、


「ヨシ、師匠に言って特訓だっ!! 好きになった女子を見ても嫌らしい視線にならない特訓だっ!!」


 と叫んで貴広オジサンの家に向かって走りだした。僕は剛太は根っからの助平すけべえだから、無駄な特訓なのにと思ったのは内緒だけどね。


 そして、小学四年生の一年間は、剛太は誰にも告白しなかったんだ。何やら怪しい特訓を貴広オジサンとしていたけれども、ソレが何の特訓かは剛太も貴広オジサンも僕には教えてくれなかったんだ。


「薫にはまだ早い」


 って貴広オジサンには言われるし、剛太は


「コレは【いっしそうでん】だから、早い者勝ちで、俺だけに教えてもらってるんだ。悪いな、かおる」


 なんて言ってきたんだ。まあ、想像はつくから、そんな特訓はしたくないけどね。


 そして、僕と将暉くん、剛太の三人は相変わらず仲良く登校して、下校している。

 そうそう、将暉くんも貴広オジサンの武術を学びに来始きはじめたんだ。

 将暉くんは素直な性格だからか、すぐに柔軟でも僕や剛太と同じように、軟体動物のように体が柔らかくなったよ。


 そして、僕達は平和な小学四年生時代を過ごしたけれども、五年生、六年生時代は今でも思い出したくないほど、大変な時代だったよ。


 思い出したくないけど、次はその話をするね。

 

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