第2話 小学校一・ニ年の剛太

 五歳から貴広オジサンの元に通いだした僕と剛太は、オジサンの家に入り浸っていたんだ。

 オジサンからは武術の基礎を学んだり、体に筋肉をつけ過ぎないように、柔軟体操や走ったりして体力作りをメインに、遊びのような感じで教えてもらった。

 そして、終わったらオジサンの好きな時代劇専門チャンネルで、一緒にお茶とお茶菓子を食べながら見ていたんだ。


 そして、二年経って僕と剛太は小学校に入学した。僕と剛太は同じクラスになったけど、席は離れている。剛太は一年生入学時には百三十六センチあって、他の子達よりも大きかったから一番後ろの席になったんだ。

 僕は百一センチしかないから前から二番目だった。男子が十三人、女子が十五人。剛太は左右を女子に挟まれてニコニコしていた。


 そして、一年の一学期半ばに剛太は右隣りの畑中彩愛はたなかあやめちゃんに告白した。


「ご、剛太くん、な、何かな? 毎日、ジッと見つめてくるけど……」


 彩愛あやめちゃんは大人しく、お目々パッチリの可愛らしい女の子で、クラスの中でも男子に人気があった。けれども引っ込み思案な性格で、女子同士でもあんまり話をしない子だった。そんな彩愛あやめちゃんが意を決したように剛太に問いかけたんだ。

 剛太の目がキラリと光り、自分でいつも言ってる爽やかスマイルを顔に貼り付けて、剛太は告白した。


「あやめちゃん、君が余りに可愛いから俺は見つめてしまうんだ。だから、俺と結婚して下さい!」


 彩愛あやめちゃんは泣き出して、先生に席を変えて下さいって頼んでいた。


「グッ、ハアー」


 剛太は泣かれたのが堪えたようだ。

 その日の帰り道に剛太は僕に不思議そうに言う。


「なあ、かおるー。父ちゃんが女はジッと見つめて口説き落とせって言ってたから、やってみたんだけど、何でダメだったんかなー?」


 僕は剛太のお父さんに子供に何を言ってるんだと心の中でツッコミながら、返事をした。


「剛太、小学一年生で結婚は早すぎだよ。付き合って下さいぐらいにしとかないと。彩愛あやめちゃんは僕の隣りの席になったから、明日から剛太は怖くないってちゃんと言っておくよ」


「おお、有難う。かおる。やっぱりかおるは俺の心友しんゆうだな!」


 僕は内心は複雑だったけど、うんと返事をして一緒に家に帰ったんだ。


 そして、二学期に剛太はまた告白した。今度は何と担任の先生にだ。


 剛太は夏休みの間に背が伸びて、百四十四センチになっていた。そして、担任の石見多香美いわよしたかみ先生は、新任の二十三歳で身長が百四十七センチ。

 顔も童顔の為に六年生からはたかちゃんと呼ばれていた。そんな先生に真顔で告白する剛太。


「先生、先生の全てに惚れました。俺と結婚して下さい!! お願いします!」


「あらー、剛太くん。愛の告白有難うー。でもね、ダメなのー。先生もう直ぐ結婚するから、剛太くんとは結婚出来ないのー」


「グハァー」


 剛太は玉砕したよ。そして、多香美先生は剛太に言った通りに二学期末に結婚しましたとクラスの皆に報告してくれた。 


 そして、僕達は二年生になったんだ。

 

 二年生でも同じクラスの僕と剛太は相変わらず仲良く登校して、下校していた。

 そしたら隣りのクラスの男子が、


「お前ら男同士でいつもいっしょにいるな。さてはホモだな」


 と言い出した。僕と剛太は無視していたけれど、それが気に入らなかったのか、段々とあることないことを言い始めて、それが本当かのように広めだしたから、僕はその子を呼び出す事にしたんだ。


 剛太は元より女子にしか興味がないから完全無視だしね。 


 僕に呼び出されたその子は取り巻き三人もいっしょだったからか、最初から強気で僕に話しかけてきた。


「なんだよ? 男女。こんなところに呼び出して。剛太に飽きられたから、俺に相手して欲しいのか?」


 うん、この子は本当に小学二年生なんだろうか? 僕はこの子の将来に不安を感じてしまったよ。けれどもそんな事は顔に出さずに淡々と僕は言った。


「僕の事は何を言ってもいいけど、剛太の事は悪くいっちゃダメだよ。剛太は女子にしか興味がないから、君たちが何を言っても気にしてないだけだから。ワザと無視してる訳じゃないんだ」


 僕がそう言うと、その子は


「けっ、やっぱりお前は剛太とヤッてるんだろう。じゃなきゃそんな剛太を庇う筈ないしな!」


 と本当に将来が不安になるようなバカな事を言ってきた。だから、僕も諦めてため息を吐きながら忠告はしたよと言ってその場を立ち去ろうとしたんだ。

 

「そっちが呼び出しておいて、そのまま帰すとでも思ったのか。みんな、コイツ裸にひん剥いて写真を撮ってバラ撒こうぜ!」


 その言葉に取り巻きの二人はノリノリだったけど、一人はそんな事はやめようよと言って止めている。更に止めている子は僕を見て、早く逃げなって言ってきた。 


 けれどもその子が他の三人に殴られたのを見てしまった僕はつい、貴広オジサンに教えてもらった武術で三人を叩いてしまった。


 三人は泣きながら


「先生に言いつけてやるーっ!」


 って言いながら去って行ったけど、残ったその子が、僕がちゃんと先生に本当の事を言うからいっしょに行こうと言ってくれた。

 そして、驚いた事にその子は僕が秘密にしている事を知っていた。けれども、誰にも言わないから安心してね。とも言ってくれた。代わりにその子の秘密も教えてくれたから、僕はその子を信じる事にしたんだ。


 そして、先生に会ってその子と二人で本当の事を話したら、あっさりと許されて帰宅する事になった。

 そしたら剛太が僕を見つけて、


「かおるー、何処に居たんだ。探したぞー。さあ、帰ろう。ん? お前は誰だ?」


 そう言ったんだけど、僕は剛太に


「僕と心友になった隣りのクラスの、神保将暉じんぼしょうきくんだよ」


 と紹介したら、


「おお、かおるの心友なら、俺とも心友だなー。よろしくな、しょうき」


 と嬉しそうに将暉くんに言ったんだ。それから三人で仲良く連立って帰ったよ。



 

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