美味しい焼きトリ……?
仁志隆生
美味しい焼きトリ……?
仕事が一段落し、ちょいと遅めの昼飯にと外へ出た。
うーん、もうすっかり春だな。
今日は天気もいいし、なんか買って近所の公園で食うかな。
そう思ってその途中にあるコンビニに入り、残っていた弁当を買った後、公園に向かった。
食い終わって考え事をしていると、どこからともなくなんか香ばしくていい匂いがしてきた。
辺りを見るとさっきは気づかなかったが、公園の隅っこに「開店セール中」と幟が出ている屋台があった。
へえ、なんだろ? と思って近づいてみると、匂いはここからだった。
暖簾には可愛らしいまんまるな鳥のイラストが。
そこでこっちに気づかないのか、一生懸命串に刺した肉を焼いている若いというか、少年ぽい男性。
イラストからして焼き鳥屋かな?
なんか焼いてる肉、普通のより大きいな。
美味そうだしまた少し腹減ってきたし、ひとつ食べてみようかなと思った時。
「あ、すみませんお待たせして」
今気づいたのか、少し申し訳なさそうに言う彼。
「いやいいですよ。あの、一つください」
「はい。今は開店セール中で一本百円です」
彼が今度は笑みを浮かべて言う。
「うわ、それじゃ大赤字じゃないの?」
こんな大きい肉だと仕入れ値でも相当するんじゃないか?
「大丈夫ですよ。ここだけの話、仕入れ値は殆どかかってないんですよ」
彼は少し声をひそめて言った。
「へえ~。問屋に知り合いでもいるの?」
「お客さん、カクヨムって知ってます?」
は? なんだこの人、いきなり話を変えてきやがった?
まあいいか、だってさ。
「ええ、実は僕、作家としていくつか投稿してるんですよ」
「そうなんですね。じゃあ今やってる全員参加型企画も、今回お題も知ってますよね?」
「ええ。『焼き鳥が登場する物語』でしょ」
今回のネタだと……どうしよっかな。
誰でも思いつくしやっぱ皆避けるだろうから、逆にそこを狙おうかなとさっきまで考えてた。
そういや暖簾の鳥、あのトリに似てるな。うん。
「まさかこの肉、あのトリだとか言うんじゃないでしょうね?」
ちょいと冗談ぽく言ってた。
「ええそうですよって、そんなはずないでしょ~」
彼もニヤニヤしながらノリツッコミしてくれた。
「ですよね。しかしこんな大きなのだと、鶏?」
「違いますよ。というかこれ、鳥じゃないですよ」
「へえ。じゃあ何……え?」
胸がいきなり熱くなったかと思うと、なにかが生えていた。
違う、刺さっているんだ……黒い棒みたいなのが。
そして彼は肉が刺さった串を持ってこう言った。
「これはねえ、あのトリさんを焼き鳥にするネタを考えてた奴らだよ」
え?
「あのトリさんがね、『そういう奴らを全員殺って』って僕に頼んできたんだ。でもただそうするだけじゃ面白くないから、こうしてやったんだ」
な、なんだと……?
「さてと、苦しまないようにトドメ刺してあげるね」
彼がそう言ったその瞬間、俺の意識は途切れた……。
「ってこれもありきたりかな~。てか『お前誰だよ?』だよね~、キャハハハ」
その彼は笑いながらバラバラになった何かを拾い集めていた。
美味しい焼きトリ……? 仁志隆生 @ryuseienbu
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