第4章 訓練
第4章 訓練
私はリンドウがサーブして呉れた珈琲を飲みながら、リンドウとリルジーナの方にチラチラと視線を送っていた。
二人が、私から少し離れた場所で「ヒソヒソ話」を始めたからだ。
二人は宇宙語とテレパシーを交えて話をしているらしくその内容について私は全く分からなかったが、「若しかしたら僕達は大いなる人違いをしているのでは無いか」 と言う話題で有る事を期待した。
リンドウがサーブした珈琲は予想通り美味かった。
まあ、私の味覚的な嗜好を分析した上で、物質を分子レベルまで分解して再構成された珈琲だ!不味い筈は無いか。
もう一度、私が二人の方を見やると、二人は液体の中で蛍が光っているような不思議な飲み物を飲んでいた。
私は、私が地球の自分のワンルームに戻される前に、一度だけで良いので彼らの飲み物を飲んでみたいと思った。
私が珈琲を啜り終えた時、リンドウが素敵な笑顔と共に私の傍にやって来た。
「今、リルジーナ様とお話をしたのですが、僕たちはユカがユウカ様の生まれ変わりで有る事を更に確信しました!勿論、最初から疑ったりはしていなかったのですが」
どうやら、彼らの「人違い」は更に深まった様だった。
これまでの遣り取りの何処の部分で彼らの「人違い」が深まってしまったのか?
「ついては今暫く、リルジーナ様のお話をお聞き戴いた上で、ユカには早速今日からトレーニングを始めて貰おうと言う事に成りました」
私の事をリンドウがまた「ユカ」と呼んで呉れた事は嬉しかったが、「トレーニング」って一体何なのよ!
私は高校時代、憧れの先輩とペアを組む事を夢見て「テニス部」に入部したのだが、勿論、先輩とペアに成る事など無く、毎日、「トレーニング」でヒイヒイ言わされて、「トレーニング」と言う言葉には生理的な嫌悪感を持っていた。
その時、「お前の容姿は中の中、そして頭の出来はは普通の下、性格は悪いに近い。だがお前には類まれな糞度胸が備わっている!」と言う「父からの言葉」を思い出した。
褒められてるのか貶されているのか分から無い「父からの言葉」だったが、そうか私は糞度胸を持っているのかと、当時、妙に納得した事が有った。
だよね。どんな「トレーニング」かは別にして「トレーニング」さえ受ければ、流石の彼らも「人違い」に気付くだろう。
ようし、やってやろうじゃないか、男は愛嬌、女は糞度胸!私は腹を決めた。
リルジーナとリンドウがまた元の席に戻ったので、私も元の椅子に座った。
「ユウカ王女様が、地球時間で約2万年程前に地球に転生されたと言うお話はしましたよね」
リルジーナは、女神らしい威厳に満ちた笑顔を湛えてそう言った。
ちょっと待って!2万年前と言う事は、昔の事だから「人生50年」として、王女は一体何回、地球人類に輪廻転生したと言うの?
リンドウ、電卓を持ってきて!
私がそう言おうとした時に、
「ムーとアトラティスの時代は、地球人類の寿命は千年位有りました!」
リルジーナは、流石は女神だけ有って、私が考えている事はテレパシーで分かるようだった。
これからは、リルジーナに対して変な事は考えないようにしようと私は思った。
「ムーとアトラティスの大陸が海中に沈んでから、闇の勢力が地球人類に対して遺伝子操作を行った為に、その後、地球人類の寿命は極端に短く成りました」
人生が千年も有るとなると、10回の転生で1万年か?
私は、それ位の転生なら有り得るかも知れないと思った。
「両大陸が海中に没したのも、当時の地球人類にも問題は有りましたが、そこにつけ込んだ闇の勢力の直接的な関与が決定的な原因でした。このお話は長く成りますので今日は省略します」
リンドウはリルジーナに対して「蛍の飲み物」のお代わりをサーブしたが、私の珈琲はサーブして呉れなかった。
リンドウのケチ!
「それでは、今から私たちが置かれている現状をご説明しますね。それをお聞き戴けると、私たちがユウカ様にお願いしたい事もより分かり易く成る筈ですから」
その時、リンドウが私の「珈琲のお代わり」を爽やかにサーブした。
えっ!聖霊属性のリンドウもテレパシーが使えるのか?
そう言えば、先刻も、リルジーナとテレパシー混じりで会話していたよな。
こりゃヤバい!私は狼狽した。
私はリルジーナに対しては変な事を考えた事は無かったが、リンドウに対しては少し顔が赤らむ事を考えた覚えが有ったからだ。
私の手が震えて、受け皿に戻した珈琲カップがガタガタと音を立てた。
「私たちが、今、乗船しているポイントビューウィックは空母です。空母だけにポイントと言う名称が与えられます。
そう言えば、昨日、「ビューウィック号」は最新鋭の空母だと言っていたよね。
「この船の艦長はエルドラルド准将!ユウカ様にもその内、彼をご紹介致しますね」
「それではここからは、リルジーナ様に代わって僕が説明しましょう」
リンドウが進み出た。
「ビューウィックの乗組員は総員約800名で、戦闘空艇200機がカタパルトに格納されています。そしてクルーは全員がヒューマノイドです」
全員がヒューマノイドだと聞いて私は一瞬安心したが、どうせ私は直ぐにワンルームに戻されるのだから、土産話に非ヒューマノイドの宇宙人に会うのも面白かったかもと思った。
そこには、映画スターウォーズに登場するような光景が展開されている筈だった。
私は「マスターヨーダ」や「チューバッカ」のような宇宙人なら全然平気だし、「イカ型人」までなら何とか成ると思った。
しかし「タコ型人」位から少し怪しくなって、「クモ型人」や「トカゲ型人」や「ヘビ型人」には私はNGを出しそうだった。
「僕達は、現在、ベテルギウス守備艦隊に属しています。本部の基地がベテルギウスに有るからですが、本艦隊は別名、東オリオンの腕(オリオンイーストスパイラルアーム)守備艦隊とも呼ばれています。旗艦はガルバラス中将指揮下の「サラマイノス級戦艦ベロノアバ・オブ・レジェンド」で、後は戦艦が2隻、巡洋艦が9隻、駆逐艦が37隻の構成です。空母はビューイックだけ。かなり小規模な艦隊です」
私は「ガラパゴス中将」以外の固有名詞は全て、左の耳から右の耳に抜けて綺麗さっぱり忘れ去っていた。
「更に、僕達の艦隊は、ベーリック元帥が司令官を務めるオリオンの腕大艦隊の一員です」
私は個人的にはベーリックよりもガーリックの方が好みかな。
ガーリックトーストは美味しいし、そうだ!明日の朝は、寝室でガーリックトーストのボタンを探してみようと思った。
「問題は、現在、大艦隊の主力部隊が紛争を調停する為に、ペルセウス渦状腕(かじょうわん)付近まで出擊している事です。僕達は僕達だけで彼らが戻るまで、闇の勢力が送り込んだ先遣部隊50隻を駆逐するだけでは無く、琴座の大ポータル付近で敵の主力部隊を迎え撃ち、足止めをしなくては成りません」
これからポイントビューウィックがどれだけ困難な仕事をしなければ成らないかについて、リンドウは熱弁を振るった。
だが、私の眼はリルジーナが優雅に口に含んで行く「蛍のように輝く飲み物」に釘付けに成っていた。
どう見ても、私の珈琲よりもリルジーナの飲み物の方が美味そうだった。
そうだ、この長い話が終わったら、リンドウに頼んで私にもあの「蛍ちゃんドリンク」をサーブして貰おっと!
先刻からそのドリンクを試飲して見たいと思っていた私は、そう固く決心した。
「それでは、本題に入りましょう!今、リンドウが申した通り、我が艦隊と敵の先遣部隊との戦力は互角です。若し勝てたとしても我が方の被害も甚大で、とてもその後に琴座のポータルから降りてくる主力部隊を足止めする事は不可能です」
リルジーナは、ひとつ大きな溜息をついた。
「そこで、ユウカ様にお願いするのです。どうか貴女様の母君と会われて、白シリウスの王族だけが継承出来る力を、ユウカ様が母君様から授かって わたし達の窮地を救って戴きたいのです」
リルジーナは、もうひとつ先刻より更に大きな溜息をついた。
「貴女様が私には関係が無い事だと言われれば、わたし達は諦める他は有りませんが、地球人類に危機が迫っているのです。どうかわたし達にお力をお貸し下さい!」
リルジーナは、私の前に跪いて私の両手を強く握り締めた。
「リルジーナ様、どうぞお顔をお上げ下さい」
私は思わず、リルジーナの事を「リルジーナ様」と呼んでしまった。
「これまでお話するタイミングが無かったのですが、私は断じてユウカ王女様の生まれ変わりでは有りません。皆さんは大いなる人違いをされているのです!」
私は毅然とした口調で主張した。
「いいえ、貴女様がユウカ王女様の生まれ変わりで有る事は間違いが有りません!」
リルジーナは、私より更に毅然とした口調でそう主張した。
「その根拠は?まさが由佳とユウカの名前が似ているからとかは言いませんよね」
これまで、一番尋ねたかった根幹の疑問を問った。
「貴女様の母君様が、直接、わたしに対してテレパシーでそうお伝え下さったのです!」
「えっ、まさか?」
「サラフィーリア様は七次元宇宙物理空間のご存在なので、この次元に直接的にお力を行使する事は叶いません。そこで貴女様に自身の代わりとしてお力を授けると仰せでした」
「う~ん、その話は私には信じられない」
私は腕組みをして、リルジーナの方を真っ直ぐに見据えた。
リンドウの事は大好きだし、リルジーナも決して嫌いでは無い。
本当にそれが真実で、本当に私で何かの役に立つのなら、会社で退屈な入力作業を続けるよりはどれだけワクワクする事か。
「ユウカ様、どうかわたしの言葉をお信じ下さい。このような危機的な状況で無ければ、折角、平凡、失礼、平穏な日々を過ごされている貴女様を誘拐まがいの事をしてこちらまでお連れしたりは致しません」
リルジーナは、私の前で跪いたままそう言った。
一瞬、リルジーナが私に対して突っ込みを入れたかと思ったが、女神がジョークを言う筈も無いと思い直して、ボケを入れるのは止めにした。
言われてみれば、真偽の程と善悪は別にして、彼らが私の事を「王女ユウカ」の生まれ変わりだと信じて起こした行動で有る事は疑いようが無かった。。
「分かりました。実は私は既にトレーニングを受けようと心に決めていたのです。そうすれば、本当に私がユウカ王女様の生まれ変わりかどうかが明白に成る筈ですから!」
「おお、ユウカ様、有難うございます。心から感謝申し上げます」
リルジーナは、私の前で跪いたまま、何度も私の両手を強く握りしめた。
「リルジーナ様、後は、僕の方でユウカ様のトレーニングを進めて参りますから」
リンドウが進み出て、リルジーナにそう言った。
「ええ、リンドウ、後は宜しくお願いします。今日は初日だからトレーニングは軽めにね。ああ、でも本当に良かった。有難うございます、ユウカ様」
リルジーナは私に深々と頭を下げてから、部屋から出て行った。
「ユカ、有難う!ユカならきっとそう言って呉れると僕は信じていたよ」
リンドウは光輝く爽やかな笑顔を湛えて、私の傍に寄って来た。
私は改めて、このリンドウの笑顔に弱い事を痛感した。
そして私は、リンドウが差し出した右手を握った。
私は初めてリンドウと握手をしたのだ。
かつての馬鹿力では無く、限りなく優しい力加減で!やはりリンドウの学習能力は半端では無かった。
その瞬間、私は自分の心臓が飛び出しかと疑う程の「ドキドキ感」に襲われた。
これは、私が単にリンドウに対して好意を抱いている以上の物で、恐らく聖霊が持つ清らかなオーラが私の中の穢れを急速に癒した結果だと感じた。
私はヘナヘナとその場に座り込んだ。
「大丈夫?ユカ」
「ええ、何とか」
私はそう答えるのは精一杯だった。
「兎に角、少し休もう。ユカ、何か飲む?軽食を持って来ようか?」
そうだ!今こそ、「蛍ちゃんドリンク」を試飲出来るチャンスの到来だ。
「私、リンドウにお願いが有るの。先刻、リンドウがリルジーナ様と飲んでた飲み物を私も飲んでみたいの」
「えーっ、そりゃ駄目だ!」
リンドウからは、私の予想に反する回答が返って来た。
「何故?」
「あれは、今のユカには波動が高過ぎて、今飲むとユカはショック状態に成ってしまう」
「蛍ちゃんドリンク」がそんな危険な飲み物だったなんて。
「じゃあ、私はあのドリンクを飲む事は無いのね」
私は悲しい目付きでリンドウを見詰めた。
「そんな事は無い。ユカがトレーニングを積んで波動が高まったら、必ず僕はファイアフライ・エレメンタル・フィズをユカにサーブする事を約束するよ」
ファイアフライ・エレメンタル・フィズ?
私は「エレメンタルフィズ」がどのような飲み物なのかを正確に想像する事が出来なかったが、「フィズ」と言う以上、レモンジュース、砂糖、そしてソーダを加えて作る爽やかなドリンクを予想した。
それが今の私に取っては危険な飲み物だとは!
私のトレーニングが終わるまでは、どうやら試飲はお預けらしい。
リルジーナはあんなに美味しそうに飲んでいたのに。
リンドウのケチ!
まあ、私の健康を気遣っての事では有るが。
一方、「ファイヤーフライ」の方は、私は正確に理解していた。
中学の時、テニス部の練習の途中で、私がコート近くの土手に座っていたら、憧れの先輩がやって来て私の隣に座ったのだ。
私は心臓がバクバクして俯いていたのだが、先輩がふと思い付いたように私に話し掛けて来た。
「菊池は、蛍は好きか?」
「はぁ?」
先輩の唐突な問い掛けに答えに窮していると、
「俺は蛍が好きだ。あの清らかな光を放ちながら楚々として飛ぶ姿は妖精の化身だと思うんだ」
「妖精の化身?」
「そうだ。それなのに蛍の事を英語ではファイヤーフライって言うんだ!火の蝿だぜ!流石にヒド過ぎないか?」
そうか。蛍の事を英語では「ファイヤーフライ」って言うんだ。
私はそればかりを考えていて、先輩に返事をする事を忘れていた。
そう言えば、私の実家はそれなりの田舎で、子供の頃には近くの小川で蛍を見掛ける事が度々有った。
「ええ、蛍って綺麗ですよね。私も好き!」と先輩に言葉を返そうとした時、コートの方から大きな声がした。
「キャプテン、ロブの打ち方を教えて下さい!」
「おお、分かった。今行く!」
先輩は、そう言うとコートの方に走り去った。
誰じゃ!私と先輩との恋路を邪魔する奴は!
私は罵ったが、結局、後にも先にも憧れの先輩と二人きりで会話を交わしたのはこれ一回だけだった。
「ああ、ユカはトレーニングの事が気に成って居るんだね」
私がトレーニングの件で物思いに耽っていると思ったリンドウがそう言葉を掛けた。
「えっ?」
私は先輩との思い出に浸っていたのだ。
な~んだ。私はてっきりリンドウがテレパシーを使えると思って警戒していたのだが、それは私の単なる思い過ごしだったようだ。
イヒヒ。これからはリンドウに対して変な事を全開で考えても大丈夫だね!
私は下品な笑い声を出しそうに成って、慌てて淑女を装った。
そう言えば、私は確かにトレーニングの内容が気に成ってはいたのだ。
「そうなの。トレーニングってさぞかしハードだろうと、私、心配なの」
「ユカ、心配しなくても良いよ。肉体に負荷をかけるようなトレーニングじゃ無いんだ」
リンドウのその言葉に、私はすっかり安心した。
社会人に成って6年、昼間は椅子に座っての仕事だし、それまでの間、私は運動らしい運動をした事が無かったので、体力には自信を持って自信が無いと断言出来た。
「ひとつは横に成っているだけで良いので楽だと思う。もうひとつはユカがサラフィーリア様と通信が可能に成る様にその能力を高める訓練で、こちらの方がトーレーングらしいかな。でもそちらの方はもっと先の事に成るけど」
私は、幾ら訓練を受けても、決して「女王サラフィーリア」と通信等が出来る筈が無いと確信していた。
それこそが、私が人違いで有る事の紛れも無い証!
「その前に、ユカ、ランチにしよう!朝は珈琲だけだったんだろう」
朝は起き抜けにリンドウが迎えに来たので、確かにこの部屋で飲んだ珈琲だけだった。
「ユカの寝室のボタンには、本格的なフレンチやイタリアンのメニューも用意しているけど、それはディナーで摂って貰うとして、ランチは軽めのメニューにしよう」
リンドウは、トレーニングは肉体的な負荷は少ないが、精神的な負荷はかかるかも知れないので、お昼は軽食で済ます方が良いと提案した。
私も昨夜は飲み過ぎで、余り空腹感は無かったが、リンドウが何を食べたい?と聞くので、
「スパイシーなカレーが食べたい!」と答えた。
「ああ、カレーね。実はカレーなる食べ物を僕は観察した事が無いので、メニューには無い」
「そうなんだ。じゃあ、ラーメンは?出来ればとん骨味!」
「ごめん、それも無い」
「じゃあ、何が有るの?」
リンドウは、サンドウィッチ、パスタ、ピザ等の名前を挙げたが、何か良い事を思い付いたようで、
「そうだ、ユカ!この船の自動シェフは、ユカの味覚分析から、逆にユカの味覚に最も合う料理を作る事が出来るんだ!その代わり、多分、ユカが初めて見る料理が出て来るとは思うけど」
私の味覚に最も合う料理!これは食べるしか無いと思ったが、やっぱり私の味覚は分析されていたんだと分かって、少しだけ切ない気持ちに成った。
「ご免ね、ユカに美味い料理を食べて貰いたくて、ユカがこの船に来た時に味覚の嗜好をアナライズマシーンに分析させてしまったんだ」
うっ、リンドウは部分的にはテレパシーが使えるのかも知れない。
これは、リンドウに対して、変な事を全開で考える訳には行かないかもと私は思った。
リンドウの好意から味覚分析が行われた事が分かって、そうだよねと納得したが、私の関心は既に「自分の味覚的嗜好に最も合う料理」の方に飛んでいた。
「じゃあユカ、料理を持って来るから、楽しみに待っててね」
そう言うと、リンドウは部屋から出て行った。
「フォッフォッフォッ、リンドウはユウカの事をユカと呼んでいたね」
リンドウと入れ替わりに部屋に入って来たのはマヤだった。
「ふ~ん、アンタ達二人はそう言う仲だったんだ。ユウカは入浴は遅いけど男に手を出すのは早いんだね」
マヤは、私とリンドウで交わした会話の最後の方を聴いていたらしかった。
チッ!ゲスの勘ぐり妖精め!
私達の愛は、人間と精霊を運命の糸で結び合ってお互いを愛おしく求めう、気高く、清らかで美しい愛なんだからね!
「アンタ、何でそんなに涎を垂らしてんの?ウチも、アンタの事をこれからはユカと呼ぶね。でもリンドウと同じ呼び方では面白く無いからユカちんと呼ぶ事にしよう」
「はいはい!ユカちんでも、ユカとんでも、何でもあんたが好きな様に呼びなはれ!」
私は、マヤの口調を真似して答えた。
「ユカちん、どうやらこれから地獄のトレーニングが始まるのかの?ウチはユカちんがトレーニングに耐え兼ねて悶え苦しむ所を眺めに来たナリよ」
お前は「コロ助」か?
「ホッホッホッ、マヤ助、残念だったナリね。トレーニングはとても楽らしいの!」
私はマヤに言い返した。
「な~んだ、知ってたのか?ちっ、面白く無いの!折角、ユカちんを脅かそうと思ってわざわざ来てあげたのにぃ!」
この性悪妖精め!ゲスだけにしときな!
何時の間にか、私は「ユカちん」と呼ばれるように成っていた。
考えて見れば、私が知る限り名前に「ちん」が付くのは、「八木ちん」と、私「ユカちん」だけだった。
案外、八木沢と私は、自分が思っている以上に「腐れ縁」が深いのかも知れなかった・
そんな事を考えていた時、テニス部の憧れの先輩が「蛍は妖精の化身」だと言っていた事を思い出した。
そこで、私はマヤと蛍の共通点について考えてみた。
確かにどちらも飛ぶ事が出来る。
そしてマヤなら、尻を光らせる位の芸当なら出来るかも知れないとも思った。
だが、清らかで楚々とした振る舞いは、この妖精では絶対に無理だろう。
まあ、妖精にも色々な種族が居るだろうし、性格もそれぞれだとは思ったが、もし全ての妖精がマヤのような性格だったら、先輩は大きな勘違いをしていた事に成る。
私がニタニタと笑ったので、
「感じ悪う~!」
と言って、マヤは部屋から出て行った。
「バイバイ、可愛いけど性悪でゲスな妖精さん。もうこの部屋には来なくて良いからね」
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