第6話
「ねえ、ルインの書はどこへ消えたのかしら? あなたならきっとわかるはずよ」
「零でいい」
「零……この大雨はこのままずっと振り続けるわ。元凶を絶たないといけない」
しばらく二人で、常緑樹が立ち並ぶ歩道をとぼとぼと歩いた。
「どこまでついてくるんだ?」
「これからマレフィキウム古代図書館へ様子を見に行くんでしょ」
「……」
「お願い! あなたと一緒にいたいの……」
たくさんの店のショーウインドーは大雨の影響で多量の雫が付着し。人通りはまばらなこの道は、よく通学路に使っているけれど、今日はその全てが酷く陰鬱な気持ちにさせられる。
少し先にここよりも賑やかな商店街があって、そこを左に曲がるとマレフィキウム古代図書館の真っ黒な堂々とした正門が見える。
漆黒の正門とも言えて、古めかしくもどこか目に見えない威厳に包まれていた。
「お前はいいとして……」
ぼくは白花の更に後ろに目をやった。
弥生と敦がニヤニヤしながらついてきていた。
「零くーん。デートかなー? なんだかこの辺だけ真夏並みに熱いわねー!」
チッ、弥生のやつ……。
何故かぼくはそれを聞いて頬が熱くなった。
「ふふん。行きましょ」
白花がぼくの腕に手を回して、マレフィキウム古代図書館の正門をくぐった。
図書館の中は、落ち着いた気持ちにさせるカビのような匂いが充満していた。白花と二人で三階へ上がると、当然だが靖たちもついて来た。靖は何も持っていないが、弥生は学生鞄以外にも竹刀袋のようなものを背負っていた。
「なあ、この上って……俺も初めてだけど……」
「え?! この上は絶対行っちゃいけないんじゃ……」
敦と弥生は三階へは決して行ってはいけないと親から言われているのだろう。
やっぱり、二人は何かしら役目を持っていた。
「この上には本物の魔術書が保管されているの。魔術書は人を選らび。そして、大抵はその人に凄まじい力を与えるだけの道具でもあるの」
白花は相変わらずしっとりとした雰囲気で落ち着いていた。
三階の奥。
蔵書などを保管した非常に厳めしい扉を開ける。
ここに十冊の魔術書が昨日まではあった。
いつも監視を怠らないようにと、親からも館長からも厳しく言われていた。
それが、昨日の午後七時には、三階の更に奥の本棚から光の中へと魔術書は忽然と消えていった。
親と館長にもまだ言っていない。
いや、怖くて言えなかったんだ。
薄暗い部屋の片隅にある本棚まで行くと、驚いた白花が空間に指先を突き出した。
「ほら、ここ。空間に穴が空いてる。見える? 昨日はなかったのに」
「……?!」
よく見ると、空間、空気、後ろの本棚。それらを繋げる小さな空間がごっそりと抜け落ちていた。まるで、水に沈んだ拡大鏡で見たかのように後ろの本棚が歪んで見える。
昨日は気がつかなかったようだ。
「変なの? 誰よこんな奇妙なことをしたのは?!」
弥生が仰天しているが、的確なことを言っているように思う。
そうだ。
これは誰かの仕業だ。
白花の方を向くと、わからないといった顔をしている。
弥生と敦は興味深々で、抜けた空間に手を入れようとした。
「駄目!! 危ない!! 手が無くなるわよ!!」
咄嗟に白花が警告をした。
「なんなんだ。これ?」
敦の顔が見る見る険しくなった。
不可思議なものへの警戒心が出たのだろう。
弥生は竹刀袋を持って辺りを警戒しているようだった。
「この先に何かある。私は見てみるわね。」
白花が抜けた空間に顔を近づけた。
「大丈夫か?」
「大丈夫よ。私は自分のどんな怪我も癒せるの」
白花が屈むように抜けた空間に顔を入れた。
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