第4話

 階段を嵐のように駆け降りると、白花が両手を挙げて降参というポーズをしていた。


「ねえ、落ち着いてよ。ゆっくり話しましょ」

「……」

「誤解があるような口振りをしてごめんなさい。私は何も世界の変わりを望んではいないのよ。ただ告げるだけなの。いわばシグナルね」

「そうか……すまなかったな。敵だと思った……」


 白花は終始落ち着いていた。

 ぼくは白花の瞳に、かなり小さな鎖のような模様が付いていることに気が付いた。


「ねえ、何してるの? ひょっとして告白?」

「マジか?!」


 驚きとお道化が入り交じった顔の弥生と靖がこちらを見下ろしていた。 


「零君。フラれたのよね! そうでしょ! 可哀想! きゃははははは!」

「何言ってんだ。あったりまえだろ!!」


 弥生と克志が腹を抱えて笑い転げている。

 この状況を見れば、誰でもそう捉えて当然だろう。


 窓の外は未だ大雨で、突如稲光が発した。


「いいえ。私、この人は好きよ」

「?!」

「世界の変わる日まで……ずっと一緒にいましょうね」

「う?!」


 それから放課後まで弥生も克志も沈黙を貫いた。

 昇降口から傘をさして外へ出ると、大雨に辟易した。やっと、弥生が話し掛けて来た。


「ネクラのあんたがねえー。明日は学校が休みで良かったわ。きっと、核ミサイルを背負ったワンちゃんか巨大なタライやたわしが空からたくさん降ってくるわよ」

「フフッ、そうでもないわよ」


 ぼくの隣には、いつの間にか白い傘を差した白花がいた。

 真っ白なハットは今は脱いでいた。

 金髪が肩まで垂れ下がっている。


「ねえ、ルインの書はどこへ消えたのかしら? あなたならきっとわかるはずよ」

「零でいい」

「零……この大雨はこのままずっと振り続けるわ。元凶を絶たないといけない」


 しばらく二人で、常緑樹が立ち並ぶ歩道をとぼとぼと歩いた。


「どこまでついてくるんだ?」

「これからマレフィキウム古代図書館へ様子を見に行くんでしょ」

「……」

「あなたと一緒にいたいの……」


 たくさんの店のショーウインドーは大雨の影響で多量の雫が付着し。人通りはまばらなこの道は、よく通学路に使っているけれど、今日はその全てが酷く陰鬱な気持ちにさせられる。

 少し先にここよりも賑やかな商店街があって、そこを左に曲がるとマレフィキウム古代図書館の真っ黒な堂々とした正門が見える。

 漆黒の正門とも言えて、古めかしくもどこか目に見えない威厳に包まれていた。


「お前はいいとして……」

 ぼくは白花の更に後ろに目をやった。

 弥生と克志がニヤニヤしてついてきていた。

 

「零くーん。デートかなー? なんだかこの辺だけ熱いわねー!」


 チッ、弥生のやつ……。

 何故かぼくはそれを聞いて頬が熱くなった。


「ふふん。行きましょ」

 白花がぼくの腕に手を回して、マレフィキウム古代図書館の正門をくぐった。

 図書館の中は、落ち着いた気持ちにさせるカビのような匂いが充満していた。白花と二人で三階へ上がると、当然だが靖たちもついて来た。克志は何も持っていないが、弥生は学生鞄以外にも竹刀袋のようなものを背負っていた。


「なあ、この上って……俺も初めてだけど……」

「え?! 絶対行っちゃいけないんじゃ……」


 克志と弥生は三階へは決して行ってはいけないと親から言われているのだろう。

 やっぱり、二人は何かしら役目を持っていた。

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