第3話

「前から思てたんやけど、裕美ちゃん、何ぞ言われたんと違うか?」

私の言葉に、シイちゃんは首をかしげた。

「キミちゃん、それは、裕美が、ダンナやダンナの親に、はよう子供つくるように言われたいうことか?まさか、今時、そんなこと……」

「うちの美香な、初めてダンナの実家に泊まりに行った時、はよう子供つくれて言われたんやて。」

シイちゃんは目をむいた。

「何それ、ハア?女は子供を産む道具とちゃうで。それで、後、どないなったん?」

「さすがに、その場では笑うてごまかしたけど、泊めてもうた二階の部屋で二人だけになったら、ダンナをしめあげたって、美香が言うてた。今時の娘らの基準でいくと、『秒』で離婚レベルらしいわ。」

「美香ちゃんのダンナは何て言うてんの?」

「聞き流してくれって……ハハハ、誰に似たんか、美香は、一人娘でおっとりしてるけど、気の強いとこあるよって。」

シイちゃんはフーッとため息をついた。

「なあんも変わってへん……」

「シイちゃん、うちも、そう思うわ。うちら、結婚してざっと三十年や。時代は変わった、いや、変わってほしいて思てた。せやけど、根っこにあるもんは、簡単に変わらへんのや。」

「キミちゃん、裕美は、最初は共稼ぎするて言うてたのに、はよう、子供二人産んで、そこそこの年頃に保育園に入れて働くて言い出したんよ。何か、そうせなあかんような、空気とか、圧、みたいなもん、あったんかもしれんわ。」

「裕美ちゃんは、何も言わへんのか?」

「美香ちゃんみたいな言われ方はされてへんと思うわ。ただなあ、もう、福祉の仕事はせえへんって言うねん。」

「やっぱり、福祉の仕事は、夜勤がつきものやからか?夜勤なしの働き方ができひんのか?」

「家庭との両立が難しいて裕美は言うねん。そら、うちかて、毎日は手助けしてやれへん……せやけど、せっかく、大学までいって、資格とったのに……ダンナのほうは、自分のやりたいことしてんねんで……向こうのお義母さん、うちの息子は大変な仕事してるし、裕美さんに支えてもらいたいってさらっと言わはるねん……」

「シイちゃん、うち、今ごろ、思い出した。向こうのお義母さんからのメールに、息子はマイペースなので、美香さんに上手くあわせてもらいたいって、書いてあったわ。何や、今になって、腹立ってきた。」

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