第138話 エリゼダイアリー

 ミュエル視点



 扉を開けてご主人様の部屋へと足を進める。


 聖域を侵すような気持ちだ。


 計り知れない背徳が噴水のように湧き出て、今まで感じたことのあるどの罪悪感よりも強い嫌悪に襲われる。


 心臓が破裂しそうなぐらい脈打つ。


 呼吸が乱れる。


 喉が干からびて砂になりそうだ。


 手のひらに爪を立てて興奮を抑えるも、その程度ならただの気休めにしかならない。


 それでも進む。

 ご主人様が自らの為だけに用意した世界を進み続ける。


 満を持して足を踏み入れたご主人様の部屋は、私に与えてくれた部屋とはまるで別物だった。


 間取りや造りは同じものの、内装が一から十まで全てに渡り異なっている。


 一目で分かる程のテーマ性は無いが、窓を遮るカーテンのデザインや家具の配色、そういうところからどこかゴシックな感じを醸し出している。


 衣服以外では見せてくれなかった彼女の一面。

 それを今、全身で味わっている。


 テーマ性のあるインテリアの中で、まず初めに目を引いたのは窓際へ置かれたベッドだった。


 寝具そのものというよりは、枕元の小物置きスペースに可愛く飾られているぬいぐるみへ自然と意識が向けられている。


 白猫を模したぬいぐるみ。


 あらゆる情報量の中でそこに注意を引かれたのは、そのぬいぐるみに見覚えがあったから。


 十年以上昔、騎士団へ入団させられた際に親が捨ててしまったぬいぐるみと瓜二つだった。


 何よりも大切にしていたそれは、依存の対象になってしまうからという理由で処分された。

 そうやって、私は聖騎士としての弱点を悉く削ぎ落とされたんだ。


 ベッドに近寄ってじっくりと観察をする。

 見れば見るほどに、私が持っていたぬいぐるみと似通ってることを思い知らされる。



「そうか、君が『えるにゃ』か。はじめましてだし、久しぶりな気もする」



 なんとなく頭を撫でてみた。


 滑るような肌触りと、押せば跳ね返してくる綿の弾力。

 何もかもが懐かしい感触だった。


 このまま抱きしめたりしたいが、感傷に浸っている場合ではない。

 わがままは後にして周囲を見渡す。


 部屋の中で次に目立つのは質素な机だった。


 正確にいうなら、その机の上に置いてある一冊のノート。


 どこにでも売っているようなその筆記帳だが、表紙には『エリゼダイアリー』と可愛らしい文字で記載されていた。


 机の隣に立っている本棚に目をやると、同じタイトルを題するノートがいくつか収納されている。


 それぞれに副題として『シャイニーハニー』『テンペスト』といったパーティの名前が添えられていた。

 ただ、その中に『クラウン』の文字は無い。


 元から机の上に置いてあったノートの表紙には『円環から外れた星』という文字が二重線で訂正されており、『夢の続き』と改められていた。

 察するに、この一冊が私と出会ってからの記録だろう。


 今必要なのはこの一冊。

 ご主人様は私のことをどう想っていたのか、それを確かめたい。



「すまない、ご主人様」



 誰もいない部屋で謝罪を口にし、机上の秘密を手に取った。


 『エリゼダイアリー』という直球すぎる題名の日記を開く。


 表紙裏に隣接する最初のページから読み始めた。


 一日目の日付は今年の春先頃。

 そして、冒頭一行目にして物騒極まる文章が飛び出て来た。



『明日、わたしは死ぬのかもしれない』


「え!? な、なんで!? この日に何が……」


『なんとなく雇ったメイドがミュエル様だった。

 わたしにとって最大級の幸運が降り注いでいる。

 こんなの、明日死なないと釣り合いが取れないよ』


「わ、私かぁ……」



 目が蒸発しそうなほど顔に熱が上った。

 脳天からは蒸気が噴き出ているかもしれないし、頬は溶け落ちているかもしれない。



『わたしの最愛、わたしの憧れ、わたしの夢。

 恋に落ちた時から一方的に固く結び付けていた運命の赤い糸が、遂に手繰り寄せられたんだ』



 恋という一文字を見て呼吸が消失した。

 ご主人様が持っていた感情を叩きつけられている。


 熱烈な文字列が意識を朦朧とさせる。


 単純に、嬉しいという感情表現以外が浮かんでこない。

 ああ、すごく嬉しい。


 昂りを抑えながら翌日の日記に目を通す。



『今日もミュエル様がわたしの家に来てくれた。

 専属のメイドになったんだから当然と言えば当然なんだけどね。

 視界にミュエル様が映る度に心臓が加速していき、最終的に心拍を観測できなくなる速度まで到達していた。

 最初は絶望下のわたしが作り出した幻想かと思っていたけど、その線は無いらしい。

 わたしの理想が具現化したものなら、何事も完璧にこなしていたはずだから。

 とにかく、騎士時代とのギャップが可愛すぎて千回は悶え死んだ』



 私がまだドジを踏んでいた頃の話か。


 懐かしくて恥ずかしいな。

 初めの数週間はメイドとして使い物にならなかったんだ。


 そんな私も今となっては人並み以上に職務をこなせるようになった……と思う。


 それはご主人様のおかげなんだ。

 あなたのおかげで私は夢を叶えることができた。


 感謝を込めて次々とページをめくっていく。

 ご主人様の心を紐解くように文章を読み続けた。



『今日からミュエル様と一緒に暮らすこととなった。

 過去のわたしに伝えても信じてくれないだろうな。

 わたしだって未だに疑っている。

 先の見えなかった恋路なのに、突然霧が晴れてゴール手前でしたなんて言われても実感が湧いてこない。

 それに、わたしなんかのメイドになってミュエル様は嬉しいんだろうか。

 怖くてそんなことは聞けないけど、少しだけ不安かな』


 「私は……ご主人様のメイドになれて幸せだ」

 

 誰にも届かない言葉だけど、言わないといけない気がした。

 

 そして、文字列を網膜に焼き付ける度に感情が富む。

 炎は激しく燃え盛る。


 震える吐息が無意識に口から漏れ出ていた。


 この部屋に入ってから何かがおかしい。


 心が崩れていくような、そんな感覚が延々と続いている。

 ここから先に進むのが怖い。


 抑え込んでいた何かが決壊してしまいそうで足がすくむ。


 それでも私は進む。

 ご主人様が書き綴った文字を認識していく。


 だけど、じっくり読み込んでいては心が持たないし、悠長に読み耽る時間も残っていない。


 読破したいのはやまやまだが、重要な部分だけをピックアップしなければ間に合わないかも。


 ご主人様にとっての転換期、私が違和感を覚え始めた頃。

 そういうポイントに的を絞って斜め読みをしていく。


 日記の日付は、春の中頃に差し掛かる。

 深淵の遺跡もといヴァニラアビスの第一層を守る自立人形ゴーレムと対峙し、大怪我を負ったご主人様が療養していた教会から屋敷へ帰ってきたその日の思い出。



『久しぶりの日記。

 病院に閉じ込められていたからだいぶ期間が空いちゃった。

 本当は、こんな無意味な文章を書いている場合じゃないんだ。

 早くベッドに飛び込んで眠っていたい。

 現実から逃げ出したい。

 どうか、わたしの舌を治してください。

 お願いだから、みゅんみゅんの料理を味合わさせて』


『退院してから一日が経過した。

 舌はまだ治らない。

 入院生活で口にしていた料理も、多分無味じゃなかったんだ。

 おかしかったのはわたしの味覚。

 今日は一度も部屋から出なかったから、みゅんみゅんに心配をさせてしまった。

 ごめんなさい』


『みゅんみゅんが起きてくる前に、キッチンを使って色々試した。

 果汁と砂糖がどっと入ったジュースも飲んだり、調味料をそのまま大量に食べてみたり。

 だけど、どれも味がしない。

 これから毎日食べていくであろうみゅんみゅんのお料理。

 ずっと楽しみだったのに、こんなのってないよ。

 ううん、味が消えただけ。

 愛情はたっぷり込められてるはずだから、それを堪能すれば良い。

 味が無くたってご飯は食べられる。

 ほんの少しだけ気持ち悪いだけ。

 

 どうしてわたしから幸せを奪うの』



 

 退院を境に、幸せな雰囲気を漂わせていた文章はどん底へと叩き落とされていた。


 胸が痛むほどに苦痛が伝わってくる。

 私の料理を楽しみにしてくれていたのに、それを堪能させてあげられなかったのが悔しい。



「やっぱり、味覚が消えていたんだ」



 確かにあの時期からその兆しはあった。

 それを重く受け取れなかったのはメイドである私の失態。


 ヴァニラアビスが口にしていた言葉を思い返す。


 シュガーテールは呪いを負の感情に変換すると、彼女は言っていた。


 だったら、ご主人様の味覚を奪ったこれは何なんだ。


 シュガーテールの力でも除去できず、『奇跡』に宿っていた膨大な魔力を用いたセレナの治癒術でも治らないのなら、それはもう地獄だ。


 その翌日の日記には、屋敷にリューカがやってきた日のことが書かれていた。


 彼女は、寝込んでいたご主人様の気分を良い方向へ変えてくれたんだったな。



『寝込んで数日経った今日、リューカちゃんが屋敷にやって来た。

 アランを吹き飛ばすから見ていて欲しいなんていう物騒なお誘いだった。

 その後、リューカちゃんは見事アランを花火みたいに打ち上げた。

 気分爽快な表情をしたリューカちゃんをつれて、わたし達は走った。

 辿り着いた公園のベンチで休憩をした。

 みゅんみゅんは、カフェでテイクアウトしていたハンバーガーをもぐもぐと食べていた。

 ハンバーガーを見ていると、お腹がすいた。

 ここ数日、ちゃんとご飯を食べていなかったからかな。

 みゅんみゅんは半分ほど分けてくれた。

 すっごく嬉しかった気がする。間接キスだし。

 だけど、味は分からなかった。

 美味しくない、それは不味く感じるのと同じ。

 夢にまで見た間接キスは、美味しくなかった』



 最低だ……私……。

 あの日、私が心の中で喜んでいたあの瞬間、ご主人様は傷を受けていた。


 間接キス。

 そんなチープな行為に興奮するなんて子供っぽくて恥ずかしかったけど、私にとってはかけがえのない思い出だった。


 ご主人様も同じ気持ちだったらいいな、なんて軽い気持ちで考えていた自分が憎い。


 後悔を宿しながらページをめくる。

 次に目を引いたのは、秋が始まる頃の記録だった。



『今日の後半は最悪な一日だった。

 アヤイロちゃん達とはもう二度と会わないと思っていた。

 あの人達とのこと、みゅんみゅんに知られたくなかった。

 これ以上知られてはいけない。

 汚れた過去を知って欲しくない。

 きっとここから先、想像もしたくない事が起こる。

 アヤイロちゃんはそういう人間だから。

 一人で解決しないといけない。

 みゅんみゅんや友達を巻き込むわけにはいかない。

 今日の前半は楽しかったよ。

 みゅんみゅんが美味しそうに屋台の料理を食べているの、大好きだから』



 一人で解決か……。


 自分が汚点だと思っている部分を見せたくない。

 その気持ちは十分理解できる。


 私はご主人様の全てを受け入れられる。

 どんな過去も受け入れる自信がある。

 

 でも、ご主人様に頼って欲しかったのなら、それを口にしてちゃんと伝えるべきだったんだ。


 私になら全てを委ねてもいい。

 そんな強いメイドになっていれば、ご主人様も頼ってくれたのかもしれない。


 頼って欲しかったなんて言葉は、少し傲慢過ぎたな。

 ご主人様が思い詰めた時、私は自ら頼ってくれと声を発すればよかったんだ。


 そして、その日から一ヶ月程度に渡って日記の更新が滞っていた。

 次に記されている日付は、アヤイロの巻き起こした事件が解決した頃だった。



『二度目の入院から帰って来た。

 誰にも相談せず一人で突っ走った結果、色々な人に迷惑を掛けてしまった。

 みゅんみゅんはわたしの為に走り回ってくれていたらしいし、リューカちゃんやセレナちゃん、さらにはテンペストのみんなまで動いてくれたみたい。

 それと、フルーリエとかいうみゅんみゅんの後輩も。

 こんなことなら、最初から周りの人に頼るべきだった。

 一人で立ち向かうことを無謀だと理解していたんだから。

 多分、わたしの汚れた部分はみゅんみゅんに知られてしまった。

 みゅんみゅんはどう思っているのかな。

 怖くて何も聞けない』



 日記の内容は徐々にネガティブな文章へと変わっていた。


 ずっと大好きだ、そう言って抱きしめてあげたいのにご主人様は今目の前にいない。


 会いたい。

 早く会いたい。


 気持ちが抑えきれずに爆発してしまいそうだ。


 ご主人様が不在のこの一週間、私はどうして耐えることができていたのだろう。


 それは簡単なことだった。


 私は耐えていなかったんだ。

 しっかりダメージを受けて精神を病んでいた。


 ご主人様が屋敷を出ていった時点で私の心は死んでいた。


 腑抜けになって家事もしなくなり、屍の類と称されてもおかしくない不能状態。

 ムカつくけど、もう一度火の粉をくべてくれたリューカには感謝しないとな……。



『今日は今まで一度も見返してこなかった日記を読んでみた。

 正直なところ、わたしの日記は暗い話がほとんど。

 言葉にできない感情を文字にして書き溜めているだけ。

 そんな文章を読み返してしまえば、きっとわたしの心は余計に傷つくと思う。

 それが嫌で読み返してこなかったけど、向き合う時が来たんだ。

 日記の一部が欠け落ちていた。

 『シャイニハニー』を脱退する直前の日記と『クラウン』に所属していた頃の日記全て。

 失くしてしまったのかもしれないし、見るに堪えないから捨ててしまったのかもしれない。

 あるいは誰かが持ち去っているのかも。

 ただ、幸いにも思い出したくない頃の日記だから問題はないかな。

 日記を読み返してみて最初に感じたのは、思ったよりもわたしの人生は充実していたんだなってこと。

 辛いこともたくさんあったけど、実は幸せなことも同じぐらいあったんだ。

 それを忘れてはいけない。

 でも、その幸せをわたしは感じてこなかった。

 感じられなかった。

 呪いがこの心を蝕む限り、わたしは光に辿り着けない。

 外からやってくる感情に振り回されるなんて、ちょっと情けないな。

 みゅんみゅんはこんなわたしをどう思うのかな。

 愛想尽かされて他の家に行っちゃわないよね。

 わたしはみゅんみゅんをどう思っているんだろう。

 分からない、もう何も分かんないよ。

 好きが分からなくなったわたしは、どこを目指して歩けばいいんだろう。

 あんなに大好きだったのに、その感情をどこに置いてきちゃったんだろう。

 それでもやっぱり、みゅんみゅんの側にいたい。


 だから、日記は一旦ここでおしまい。

 絶望に引き込まれたくないから。

 ここから先のページを幸せで埋めていきたいから』



 日記はそこで終わっている。

 ノートの半分程を白紙で残して、記録は途切れていた。


 机に両手をついてため息を吐く。


 大好きな人の内側を知った結果。

 私の無力さを改めて叩きつけられた。


 何もしてあげらていなかったんだな。


 メイドにはなれたのかもしれないけど、ご主人様のメイドとしてはまだまだ未熟だった。


 目を瞑り深く思考する。

 感情と記憶を整理していく。


 ご主人様が私に憧憬しょうけいを抱いていたことは知っていた。


 この屋敷に来るよりも前、ずっと昔から彼女は私を想ってくれていたのを知っているから。


 全部覚えている。

 私は人の顔を覚えるのが得意だから。


 聖騎士なりたての頃。

 人々は私の強さに怯えと恐怖を感じていた。


 規格外の強さを持つ私は、魔族や魔獣と同列の存在になってしまったんだ。


 誰も化け物だとは言ってこなかったけど、確実に避けられていた。

 私の周囲には常に緊張が付き纏っていたんだ。


 ある日、私はこれからずっと独りで生きていくんだと覚悟を決めた。

 もう、誰も私に笑いかけてくれる人はいないんだって幸せを諦めた。


 でも、そんな孤独は一人の少女が払ってくれた。


 私を初めて応援してくれた人。


 それがエリゼ・グランデだった。


 ほとんど恋文のような手紙を送ってくれたり、魔獣討伐から帰還した際は人混みに紛れて私を労る言葉をひっそりと投げてくれたり。

 そんな風に様々な手段で私を応援してくれていた。


 彼女がいたから、私は聖騎士という地位に立ちながらも親しみを受けられるようになったんだ。


 私はご主人様に二度救われた。

 聖騎士として、メイドとして。


 そんな私が立ち止まっていていいわけがない。


 お腹に力を入れて瞼を上げた。


 途中から空白に塗れた日記帳を何気なしにめくる。


 何も記されていない真っさらな紙面。

 ここから先は幸せな記録だけが綴られていく。


 私とご主人様のこれからに理不尽と不幸は必要ない。


 そんな願いと祈りを込めて、一番後ろまで日記帳をめくり続けた。



「行かないと……」



 ぼやけた意識に活を入れようとしたところで、空白に染まっている最後のページに文字が浮かび上がり始めた。


 ひとりでに文字を記していくそれは明らかに魔術的なもの。

 この術式を仕込んだのがご主人様じゃないことは、なんとなく理解できた。


 浮かび上がる文章は、ご主人様が書く文字とは異なりどこか懐かしさが漂う筆跡。


 私はこの筆者を知っている。

 独特な丸い字体でお世辞にも綺麗とは言えない文字。


 こんな字を書く人間を私は一人しか知らない。



『久しぶりミュエルちゃん。

 これは眠っているエリゼの体を借りて書いています。

 夢遊病的なアレです』


「……なんで……ナルルカの文字が」



 思考の外側に存在していた情報が彗星の如く脳内で弾けた。


 文字列の意味が理解できない。

 どうしてご主人様の中にナルルカがいるのか、ナルルカは死んだはずじゃないのか。


 理性が目の前の事象を否定している。


 駄目だ。

 わけが分からない。


 思考を放棄している間にも、空白だったページには次々と文字が刻まれていく。



『アタシは『奇跡』って呼ばれる最低な腕輪に残されていた死に際の魔力残滓。

 それが巡り巡って今はエリゼの中にいるって感じ。

 本当は綺麗に退場する予定だったんだけど、なぜかエリゼの体に定着しちゃったみたい』


「そんな滅茶苦茶な……」


『滅茶苦茶なのがアタシっぽいでしょ』



 私の言葉を予測して文章を書いているのか、自動手記が勝手に応答しているのかは分からないけど、普通に不気味だ。


 あまり文字と声でコミュニケーションは取りたくないな。


 すると、不思議な自動手記はその時点で停止してしまった。



「え? こんな中途半端なところで終わるのか?」



 独り言になってしまったその言葉を呟いて数秒、背中の方から微かな魔力を感じた。


 その刹那、聞き馴染みのある声が発っせられた。



「こら、変態メイド! 勝手に人の部屋に入っちゃダメでしょうが!」


「ちっ、違うんだ! これは覚悟を決めた上での行動であって、そういうやましい感情は一切ないとは言い切れないが、と、とにかく違うんだ!!

 って、誰……!?」



 咄嗟に振り向いた先には、妖艶と無邪気を混ぜて作り上げた笑みを浮かべる女がいた。


 かつての私が背中を預けていた騎士らしくない騎士であり、自由奔放なギャル。



「おひさー、主人の秘密を暴く不届きエロメイドミュエルちゃん」



 亡くなったはずのナルルカ・シュプレヒコールが立っていた。

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