6.やきとり

 えっ。僕は一瞬固まってしまった。鳥じゃあないって?


 大将がやはり串を焼いている手元を見ながら、僕に言った。


 「お客さん。素人だね」


 「・・・」


 「お客さんの言うのは、漢字で書く『焼き鳥』のことだよ。うちの品書きをよくごらんよ。漢字じゃなくて、ひらがなで『やきとり』と書いてあるだろ。ひらがなの『やきとり』は漢字の『焼き鳥』とは違うんだよ」


 そうだったのか。知らなかった。僕は大将に聞いた。


 「へえー、そうなんですか。知りませんでした。ということは、漢字で書く『焼き鳥』が僕が言ってた鳥肉なんですね。じゃあ、ひらがなの『やきとり』は何の肉なんですか?」


 大将が下を向いたままで答えた。


 「正確に言うとね。漢字の『焼き鳥』は鳥肉にたれや塩などをつけて、あぶって焼いたもの。それで、 ひらがなの『やきとり』は、鳥や牛や豚なんかの動物の臓物を串焼きにしたものだよ」


 「すると、いま、僕らが食べてるのは、動物の臓物の串焼きなんですね。しかし、さっきの串も、この串もおいしいですね。いったい、この串は何の動物の臓物なんですか?」


 やっと大将が顔を上げた。にやりと不気味に笑った。そして、小さく言った。


 「ヒトだよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る