6.やきとり
えっ。僕は一瞬固まってしまった。鳥じゃあないって?
大将がやはり串を焼いている手元を見ながら、僕に言った。
「お客さん。素人だね」
「・・・」
「お客さんの言うのは、漢字で書く『焼き鳥』のことだよ。うちの品書きをよくごらんよ。漢字じゃなくて、ひらがなで『やきとり』と書いてあるだろ。ひらがなの『やきとり』は漢字の『焼き鳥』とは違うんだよ」
そうだったのか。知らなかった。僕は大将に聞いた。
「へえー、そうなんですか。知りませんでした。ということは、漢字で書く『焼き鳥』が僕が言ってた鳥肉なんですね。じゃあ、ひらがなの『やきとり』は何の肉なんですか?」
大将が下を向いたままで答えた。
「正確に言うとね。漢字の『焼き鳥』は鳥肉にたれや塩などをつけて、あぶって焼いたもの。それで、 ひらがなの『やきとり』は、鳥や牛や豚なんかの動物の臓物を串焼きにしたものだよ」
「すると、いま、僕らが食べてるのは、動物の臓物の串焼きなんですね。しかし、さっきの串も、この串もおいしいですね。いったい、この串は何の動物の臓物なんですか?」
やっと大将が顔を上げた。にやりと不気味に笑った。そして、小さく言った。
「ヒトだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます