5.品書き

 僕はさっきの蔵府ぞうふ神社の境内を思い出した。そうだ、舞は焼き鳥を食べたことがないって言ってたな。僕は舞と一緒に壁の品書きを見ながら説明を始めた。


 「ハツというのは、心臓のことだよ。だから、ココロとも言うんだ」


 「ふーん。では、『ハツげん』というのは?」


 「ハツゲンではなくて、ハツモトだよ。『ハツもと』は心臓の根本の部位だ。次の『ハツ紐』は心臓と肝臓をつなぐ部分のことだよ」


 「ふーん。面白いね。じゃあ、その次の『丸ハツ』というのは、心臓の丸焼き?」


 「ピンポーン。正解。心臓を裏返して、丸のままで串を打つから『丸ハツ』」


 「すごーい。翔太って物識りね。じゃあ、その次の『砂きも』は?」


 「スナキモじゃあなくて、スナズリ。どこか当ててごらんよ」


 「・・うーんと・・肝だから、肝臓?」


 「ブッブー。残念でした。『砂ずり』は胃袋のことだよ」


 そこへ、次の串が運ばれてきた。やはり、僕が見たことのない部位だ。レバーのようでもあるが、口に入れると、ほどよい硬さがあってジューシーな味わいだ。これもうまい。


 舞もおいしそうに食べている。舞が串をほおばりながら、僕に聞いてきた。


 「焼き鳥って本当においしいね。翔太、この串はどこの部位なの?」


 僕は答えられなかった。さっきの串といい、この串といい、この店は希少部位ばっかりを出しているようだ。鄙びた商店街にある、しけた焼き鳥屋だと馬鹿にしていたが、どうしてどうして大したものだ。


 それにしても、舞の言うようにこの串は一体どこの部位なんだろう?


 僕は大将に聞いた。


 「大将。さっきの串もこの串も希少部位みたいですね。いったい、鳥のどこの部位ですか?」


 大将は串を焼くので忙しそうだった。眼は下に向けたままで、僕の方は見ずにぼそりと言った。


 「鳥じゃあないよ」




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