焼き鳥って…?
伊崎夢玖
第1話
鳥類魔族は現在三つに分類される。
人の言葉を話せない、手のひらに乗るくらいの大きさの小型。
小型よりは大きく、人の言葉を理解し、話すことのできる中型。
人間より大きく、頭脳も身体能力も優れている大型。
――俺たちは中型鳥類魔族である。
人里から遠く離れた山奥にひっそりと集落をかまえ、誰に迷惑をかけるでもなく幸せな毎日を過ごしていた。
しかし、その幸せはある日突然失われた。
新しい国王とか言う奴の命令で、鳥類魔族を管理、飼育されることになった。
『鳥類魔族が増えすぎ』とかいうわけも分からない理由で中型鳥類魔族のみが間引きされる対象になったのだ。
そのことは中型鳥類魔族だけでなく、魔族側の誰も知らなかった。
我々の自由は突然失われた。
男も女も、老いも若きも関係なく、全員が番号を付けられ、男女別に管理されることによって…。
狭く暗い部屋に押し込められて、何日が経っただろう。
「兄ちゃん…」
幼い弟が不安そうにこちらを見てくる。
弟は先月生まれたばかりの雛だ。
右も左もよく分かっていない。
(自分がしっかりしないと…)
自分自身も不安で押し潰されそうだが、弟はその何倍も不安なはず。
兄として、しっかりした姿を見せようと、自分を鼓舞した。
「大丈夫だ。兄ちゃんがついてる」
「うん…。そういえば、父ちゃんは?」
「俺たちとは違うところにいるのかもな。そのうち会えるさ」
「うん。父ちゃんと母ちゃんに会いたい…」
寂しがり屋で甘えん坊な弟は目に涙を浮かべた。
かわいい弟にこんな顔をさせた国王を俺は許さない。
キーンコーンカーンコーン!!
耳をつんざくような大きな音が鳴る。
この音が鳴ったということは今日は呼び出しの日だ。
重装備な人間が俺たちが管理されている部屋に入ってきた。
「今から言う番号の魔族はこちらまで出てこい!」
一人、また一人と次々に番号が呼ばれる。
その中に見知った顔があった。
親父だ。
少し動くだけで肩と肩がぶつかってしまうような狭い部屋にすし詰め状態になっている現状、まさか親父が同じ部屋にいるなんて気付きもしなかった。
「父ちゃん!」
弟が嬉しそうに駆け出した。
「おい待て!」
急いで止めようとしたが、伸ばした手は弟を捕まえることはできなかった。
俺の代わりに捕まえたのは人間で、俺のかわいい弟を突き飛ばして、転ばせた。
もちろん、弟は突き飛ばされたことに驚いたのも当然だが、怪我も痛くて泣いた。
「うるさい!そんなにコイツと一緒にいたいならお前もつれていくぞ!」
「……い、いやぁ……」
「すみません…愚息が失礼しました」
親父は弟を庇い、殴る蹴るの暴力を受ける。
それを止める同胞はいない。
止めたら次は自分の番だからだ。
好き好んで暴力を受ける奴はいるわけがない。
部屋の中に親父の「すみません」の声だけが響く。
ある程度暴力を振るったら満足したのか、集めた同胞を連れて人間は去っていった。
俺はすかさず弟の元へ駆け寄った。
「怪我はないか?」
「兄ちゃん…」
「大丈夫だな。よかった…」
「父ちゃんが…」
「分かってる。でも仕方ないんだ…」
しばらくすると、何やら香ばしい匂いがしてきた。
俺はこの匂いの正体を知っている。
『焼き鳥』という人間の食べ物だ。
鶏肉を焼いて、それに醤油や塩で味付けしたものらしい。
さっき連れていかれた同胞は焼き鳥になった。
もちろん、親父も…。
「兄ちゃん、おいしそうな匂いだね」
さっきまでの泣き顔はどこへやら、弟が笑顔で話しかけてきた。
「…そうだな」
「僕たちもいつか食べられるかな?」
「…どうだろうな」
知らないとは時に残酷である。
弟はこの匂いの正体をまだ知らない――。
焼き鳥って…? 伊崎夢玖 @mkmk_69
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