1章 ボーイ・ミーツ・ウルフガール(25)

 精霊は人間の言語を理解することは出来ても、話せる精霊というのは殆どいなく、言葉を話せる、つまり、言霊を操れるというだけで、相当な高位の精霊である証拠あかしだった。


 4人と1匹の精霊、彼たちは遊んでいた。仲睦まじく、その様はしのぎを削り合い、お互いを高め合う精霊使いエスプリットユーザーではなく、あたかも、普通の男子中学生のようだった。


 ある日、その4人は秘密基地に来ていた。4人が作った秘密基地、普段の辛い生活、大人や教師たちの目から逃れられる、そんな憩いの場。それは大人たちが「危ないから入っちゃだめ」と散々言われていた魔法の森の中にあった非常にデカい木の中だ。大木に掛かってあるつるを梯子のように手をかけて上に登ったあとには、人が数人入れそうで、趣深い、自然の中に出来たどこか独創的で、かけがえのない居場所。それがこのツリーハウスだった。勿論生徒を守るために、中等部生の森への侵入はどんなことがあったにせよ、校則違反なのだが、そんなことはお構いなしだった。あやかしと出くわすことは少なくなかったものの、当時優等生だった三日月を始め、その四人にとって妖の1匹や2匹などは全く脅威ではなかった。最初は魔法の森の探検と題して、怖がる裂葉や三日月をたしなめつつ、魔法の森への侵入を繰り返していたが、その大木を見つけてからはそこでゲームをしに行くのが、放課後の定番と彼らの中ではそうなっていた。そう、あの時までは。


 いつものように秘密基地へと向かった4人。軽い小雨は降っていたものの、大意は変わらないだろうと、そこでお菓子を食べていた。雨の日でも上の枝や葉っぱによって彼らの居場所は濡れなかった。


「なぁ、三日月?」


「何、謙一?」


「お前って好きな子とかいるのか?」


「い、いやーいないよ。というか、なんで僕?」


「いやだって、明治はシスコンだし、裂葉は貴族から嫌われてるしで」


「ちょっと、僕に関しては家柄なだけじゃん!」


「おい、今なんて言った?」


「この中で、一番チャンスありそうなのは三日月じゃん。恢島とはどうなのよ?」


「えぇ!? そ、その、「どうなのよ?」って言われても、あいつとはただのライバルなだけで、べ、別にそんなことを考えたことないっていうか…… というか榎戀、好きなタイプが自分より、背が高くて、優しい白馬の王子様みたいな人がタイプって言ってたから、僕とは完全にモードが違うというか……」


 そんな赤い顔で、捲し立てる三日月を見て他の3人はなにやら察したような雰囲気になる。


「ワシも、お前さんがあの子と恋仲になったら、存分にお祝いするぞ」


「だから、そんなんじゃないって!!!!」


 そんないつものように談笑していた時、エターナルなものだと思っていた日常が突然終わる。

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