1章 ボーイ・ミーツ・ウルフガール(22)
人が使う霊術は人が常に使っている言葉すなわち、言霊を媒介にして初めて顕現することが出来る。だから、霊術を用いるときは必ず、呪文のような言葉を唱える。勿論、唱えたからと言って、誰でも使えるわけではない。人にはそれぞれ霊力という体力と同じような概念を持っている。言霊を出す、いわば喋るという霊術の行使においても、その行動を何分も続けたり、大きな声で話せば、嗄れたり、疲れたりするだろう。それと同じように、そんな霊術をバンバン使うことは一般人では到底無理なことだ。体力同様、霊力も回数をこなしたりするなどの訓練を積むことで霊力の限度を増やせる。
話は逸れてしまったが、つまるところ、三日月は人間っぽく言葉で、彼女を止めようという方向へシフトした。
「本当に、手にかけるのかよ!」
そう叫ぶも、彼女は止まらずに歩み続ける。
「あんなに、仲良さそうだったのにさ! それでもかよ!」
聞く耳を持たないというよりかは全く聞こえてないのかのように、つゆほども気にせず進み続ける。
「なぁ、聞いてるか! 恢島!」
無視を続ける。
「聞けって、榎戀!」
榎戀は驚いた。それは、久しぶりに三日月から名前で呼んでくれたことが嬉しかっただけではない。彼の声がいつの間にか、とても近くから聞こえてきたからだ。おそるおそる後ろを向いたのと同時に、榎戀の肩に手がかかる。そこには小さき人が聳え立っていた。
「離して」
「嫌だ」
三日月の左腕を彼女の脇の下に通し、身動きを封じようとする。
「もう一回言う。離して。私だって、アンタを痛めつけたい訳じゃない」
冷淡な声色で、忠告を出す。
「嫌……だ」と、捻り出すように力強く言う。
「あいつが妖だからって、一体何の不都合があるんだよ。リンだって、普通に笑って、普通に泣いているだけの、ただの人じゃないのか」
「これは警告よ、離しなさい。離さなかったら、どうなるか分かってるわよね」
「なぁ、聴けよ。榎戀、お前は、あそこで怯えているリンの鳴き声を聞いて、何も感じない訳ないだろ!」
「
問答無用と言わんばかりに稲妻が彼の身体を走っていく。しかし、三日月はもう一回倒れることはなく、そのまま変わらずに彼女の身体を拘束し続ける。
「はぁ、はぁ」
「離して」
「まだ、そんなこと言ってんのかよお前、そんな顔してま……」
「次は本気だから」
今までの冷淡な声色とは異なって、急に叫ぶようにして、声を荒げ始めた。
「なぁ、聞けって」
「10秒あげる。これは通告、本当にアンタ、解かないと死ぬわよ」
「10」
「なぁ」
「9」
「おい」
「8」
「お前は」
「7」
「さっきから」
「6」
「なんで」
「5」
「なんで、泣いているんだ!」
途端に彼女がしていたカウントダウンが止まった。気付いてなかったのだろうか。彼女がそれを意識し始めた時、まるで堰を切ったように彼女の両方の目から涙が溢れ出した。
「いや、それだけじゃない。なんで、お前はわざわざリンに
「黙って! うるさいうるさいうるさい!
そして、二回目の雷撃が彼の身体に走った。
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